最新記事

ブレグジット

EUとのFTA「合意あり」でも関係ない イギリスはハードブレグジットに突入

2020年10月21日(水)12時00分
ヨゼフ・ドベック(外交政策研究所フェロー)

FTA合意なしでも「良い結果になる」とジョンソンは主張しているが HENRY NICHOLLS-REUTERS

<12月31日で移行期間が終了して名実共にEUを離脱するイギリス。FTA合意の有無に関係なく、EU加盟国との通商上の結び付きはヨーロッパで最も弱い国に>

イギリスの国民投票によるブレグジット(英EU離脱)決定から4年。だが離脱は依然文面上にとどまっている。確かに今年1月31日に法的には離脱したが、「移行期間」中はまだ実質的には加盟国。英企業がEU内でビジネスをすることもドイツ人がビザなしでロンドンに移住して働くことも可能だ。

だが移行期間は12月31日で終了、イギリスは名実共にEUを離脱する。ブレグジット後を見据えた通商交渉は大詰めを迎え、EUとイギリスの双方がより大きな賭けに出ている。ジョンソン英首相は通商協定のないEU離脱でも「良い結果になる」と主張。一方EUは、協定を望むがどんな犠牲を払ってでもというわけではない、と強調してきた。

イギリスのメディアや金融市場は10月15日に始まったEU首脳会議前から交渉の行方を注視していた。しかし「合意あり」か「合意なし」かをめぐる議論はより大きな構図を見えにくくする。交渉の結果がどうあれ、イギリスは既にハードブレグジット(強硬離脱)に向かっているのだ。

現在交渉が行われているのは結局、典型的な自由貿易協定(FTA)に条件を付加したもので、英・EU間の工業製品や農水産・食品の関税および割当枠がゼロになる。

FTAはイギリスの農水産部門、特に漁業と食品加工業にとっては重要だ。水産・加工食品に対するEUの平均関税率は高く、例えば菓子類では最高24.5%に達する。

だが全体では大した恩恵はなく、4億4800万人規模のEU市場で英企業は競争上かなり不利になる。

第1に英・EU間の煩雑な輸出入手続きが不要になる見込みはない。英製造業には難題だ。英政府はイギリス側からEU圏への物流に最大2日の遅延を見込んでいる。

第2 に、貿易の「技術的障害」は残る。来年1月以降、英企業が製品をEU市場で販売するには、個別にEU規制当局の検査を受け新たに証明書を取得しなければならない。それには製薬企業や化学企業などの多くがEU内に子会社を新設する必要がある。

第3に、イギリスの基幹産業であるサービス部門にはメリットはない。英経済の稼ぎ頭であるサービス業のEU市場へのアクセスは大幅に低下するはずだ。

バークレイズ、ロイズ、クーツなど英金融機関は既にEU内の顧客口座閉鎖を通知。EUに支店を開設してまでサービスを継続する価値はないと判断したのだ。米金融コンサルティング会社アーンスト・アンド・ヤングの試算では、早くも7500人分の雇用と顧客資産1兆5500億ドルがロンドンから大陸側に移管されたという。投資ファンド関連産業などについては、来年以降EU側がどんなルールを適用するか分からない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

サプライチェーン圧力上昇、3月は23年1月以来の高

ビジネス

FRB利下げ可能、AIによる生産性向上で物価下押し

ワールド

レバノンのキリスト教政党幹部死亡、イスラエル空爆で

ワールド

米BNYメロン、「トランプ口座」の財務代理機関に 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙の2大テーマでAI懸念を払拭できるか
  • 4
    トランプ、イランに合意期限「米東部時間6日午前10時…
  • 5
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 6
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 7
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 8
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 9
    イラン戦争は「ハルマゲドンの前兆」か? トランプ…
  • 10
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 9
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中