最新記事

テロ組織

コロナ危機を売名に利用するテロ組織の欺瞞

For the Taliban, the Pandemic Is a Ladder

2020年5月15日(金)16時40分
アシュリー・ジャクソン

アフガニスタンでもヘラート州を中心に感染者は日々増えている MOHAMMAD ISMAIL-REUTERS

<世界各地の反政府組織はコロナ禍を利用して、自らを正当化し政府を批判するが、被害を受けるのは支配地域の住民だ>

アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンがネット上で珍しい動画を公開した。よくある戦闘員の「勇姿」ではなく、マスクを着けた彼らが住民の家を訪れ、体温の測定や消毒液の配布をしている姿だ。英語のナレーションによれば、タリバンは既に新型コロナウイルスの爆発的な感染を抑え込んでおり、感染予防の情報班を結成し、診療所や隔離施設も用意している。

それだけではない。タリバンは中東地域で最も感染者の多いイランからの帰国者に対し、2週間の自宅待機を命じていた。まだアフガニスタン政府が、毎日1万5000人も通過する対イラン国境でほとんど何の規制も行っていなかった時期の話である。

反政府勢力が体制側の弱みや危機に付け込むのは毎度のこと。テロ対策の専門家デービッド・キルカランに言わせれば、危機対応で政府より少しでもマシなように見せることができれば、彼らは自らの正統性をアピールできる。実態はどうでもいい。大事なのは「見せ掛け」だ。

ちなみにニューヨーク・タイムズ紙によれば、タリバンはアフガニスタン東部のナンガルハル州で報道陣を集め、防護服姿のスタッフが非接触式体温計を使って検温する様子を公開したが、よく見るとその体温計はプラスチックと木材を組み合わせただけの偽物だったという。

各地の武装勢力が新型コロナウイルスの対策に乗り出したとか、このパンデミック(世界的な大流行)を利用して、宣伝攻勢を強めているといった報道は山ほどある。コロンビアの民族解放軍(ELN)は支配地域のロックダウン(都市封鎖)を発表。住民が「感染症対策の命令を尊重しない」場合は「命を守るために彼らを殺さざるを得ない」こともあると警告し、民間人に対する虐待を正当化している。

実際の対応能力はない

ソマリアの反政府組織アルシャバブやイエメンのシーア派武装組織のホーシー派は、ウイルスの感染拡大は政府の責任だと非難している。今なお「イスラム国」を自称する過激派組織ISは、手洗いの奨励と感染予防に関するシャリーア(イスラム法)指令を出した。

メキシコでは麻薬カルテルが住民に医薬品を配布する映像が出回っている。エルサルバドルのギャング、MS-13は夜間外出禁止令を出し、リオデジャネイロのスラム街を実効支配するギャングが「政府が無能なら自分たちが問題を解決する」と宣言している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中