最新記事

感染症対策

シンガポール、新型コロナウイルス対策に「穴」 置き去りにされた外国人労働者間で感染拡大

2020年4月23日(木)17時11分

バケツを手に、食べ物の配給を待つインド、中国からの労働者。この宿泊施設は集団感染が発生して隔離された。4月6日、シンガポールで撮影(2020年 ロイター/Edgar Su)

シンガポールは新型コロナウイルスの感染者とその接触者を特定し、監視することで感染拡大を抑制したと、世界保健機関(WHO)から高く評価されている。だが、それは一般国民の話で、社会的立場が弱い出稼ぎ外国人労働者が住む地域では、感染が急速に拡大しつつある。

14日までに確認された国内感染者3252人のうち、1625人はこうした外国人労働者の居住地域と関係がある。このためシンガポール政府の対策には穴があった、と人権団体などから批判が出ている。

人権団体や慈善団体、医療専門家は以前から、密集状態で不衛生な場所に暮らす30万人を超える外国人労働者の間で、何らかの感染症が大規模に広がる危険性に警鐘を鳴らしていた。ところが、新型コロナ発生を受け、政府が当初打ち出したいくつかの対策は、外国人労働者社会を念頭に置いていなかった。

例えば、政府は感染拡大防止のため、一人の医師が複数の病院で勤務するのを禁止。これによって一部の外国人労働者が利用していたボランティアによる医療サービスは人手不足に陥り、急激な業務縮小を迫られた。

また、国内へのマスク配布も、外国人労働者居住地域は対象外だった。さらに最近、何万人もの労働者を狭い区画に隔離する措置が導入され、感染拡大を加速させる恐れが生じている。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの調査に携わる研究者のレイチェル・チョア・ハワード氏は、「(政府の)こうしたやり方は多くの外国人労働者を新型コロナ感染の危険にさらす。本当に懸念している」と話す。

政府当局は、外国人労働者の住居の衛生問題を改善し、病気の発生を検知する予防策を講じてはいたと説明。ただ、新型コロナの感染が広がってしまった以上、多くの人たちを隔離することを決める必要があったと釈明している。

それでも足元の状況は、一般の国民と、主にインドやバングラデシュからやって来て、同じように近代的な都市国家の発展に貢献してきた外国人労働者との間で、政府の適用する基準が異なることを浮き彫りにしている。

一例を挙げれば、海外から帰国したシンガポール国民が隔離される場所は高級ホテルだが、一部の外国人労働者が閉じ込められているのは、中身があふれそうなごみ箱とトイレがあるだけの2段ベッドの部屋だ。

シンガポール人材開発省はロイターの取材に対し、外国人労働者の住居において隔離を開始した段階では、衛生や食料供給の面で「さまざまな課題」に直面したものの、運営者と協力して環境改善に努めているとコメントした。

リー・シェンロン首相は10日、シンガポールは外国人労働者の貢献に感謝しており、隔離期間中も報酬を受け取れると強調した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中