最新記事

新型コロナウイルス

中国を笑えない、新型ウイルスで試される先進国の危機対応能力

The West Is About to Fail the Coronavirus Test

2020年2月27日(木)19時30分
イーサン・ギレン(健康問題コンサルタント)、メリッサ・チャン

エボラ流行時の検疫・隔離政策を検証した報告書は、何より重要なのは、どんな政策であれ、恐怖ではなく科学的根拠に基づいて行うことだと指摘する。

だが今、恐怖は医療ばかりか各国政府の手足も縛っている。世界のあちこちで、恐怖をあおるプロパガンダがまかり通っている。国際協調を泥棒呼ばわりするデマゴーグ(扇動政治家)が熱狂的に支持され、極右のポピュリスト政党が台頭している。そんななかでは、各国政府がパンデミックを封じ込めるために手を携えて協力するのは難しい。新型ウイルスは中国かアメリカが製造した兵器だ、という陰謀説まで流布されている。

このままでは世界は、パンデミック対策に不可欠な国際協力体制が無残に砕け散るさまを目の当たりにすることになるだろう。その一例が、日本からタイまで複数の港に入港を拒否されたクルーズ船「ウエステルダム」だ。普段は人権を重視している国でさえ、感染症となると平気で人道に背を向ける判断を下すことが明らかになったのだ。

恐怖が対策を妨げる

理屈の上では、アメリカは新型ウイルスにうまく対処できるはずだ。米疾病対策センター(CDC)はアメリカ人が最も信頼する連邦機関の1つ。政府機関を信頼する人々はその機関の言葉を信じて正しい行動をする。それが、感染症対策を成功に導くのだ。

2014年にはアメリカでもエボラの感染者が出た。リベリアから渡米後に発症したトーマス・エリック・ダンカンはテキサス州ダラスの病院で治療を受けたが死亡。彼の治療に当たった2人の看護師がエボラに感染したことがわかると、全米に激震が走った。パニックが広がるなか、西アフリカのエボラ感染地域からの入国禁止を求める声が一気に高まった。

共和党はもちろんのこと、民主党の一部議員も入国制限に踏み切るよう政府に猛烈な圧力をかけたが、当時のバラク・オバマ大統領は集団ヒステリーに屈しなかった。「基本的な事実を思い出してほしい。世界のある地域をまるごと封鎖する試みは、たとえ可能だとしても、状況の悪化をもたらすだけだ」

イスラム教徒の入国を禁じ、国境の壁建設を目指し、不法移民を収容所に入れる今のドナルド・トランプ大統領は、パニックを沈静化するより、煽るほうが得意な指導者といえるだろう。トランプの下でパンデミックが起きればどうなるか。トランプ政権の判断力と統治能力が試されることになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中