最新記事

新型コロナウイルス

新型コロナウイルス最大の脅威は中国政府の隠蔽工作

TURNING CRISIS INTO CATASTROPHE

2020年2月27日(木)18時30分
ローリー・ギャレット(科学ジャーナリスト)

magw200227_coronavirus2.jpg

会議場などの既存施設を改造してつくった臨時医療施設 FEATURECHINA/AFLO


科学的には、この隔離政策は一つの前提に依存していた。人から人に感染する可能性があるのは感染者が発熱している場合に限るという想定だ。全国各地の要所要所に体温測定地点が設けられた。幹線道路沿い、大きな建物の玄関、主要駅。武漢から遠い都市でも警官が街なかで測定した。交通機関の利用は禁止された。熱がある人全てを隔離すれば、これ以上蔓延せず、まもなく収束するだろうと見なされた。

次々裏切られる甘い見通し

だが発熱以外の軽い症状だけでも感染する可能性があることが判明した。しかも1人が2〜4人にうつす恐れがあった。咳・くしゃみによる飛沫や唾液を通じて感染するだけではない。排泄物からもウイルスが検出されたので、「糞口感染」に起因する伝播も危惧された。

潜伏期間が最大24日に及ぶ可能性もあった。SARSなら潜伏期間は2〜10日で、発熱した人しか他人にうつさない。新型コロナウイルスはむしろインフルエンザに似ていた。症状なしの人との握手や空間の共有で感染する。だがインフルエンザの潜伏期間はせいぜい1〜3日だ。

1月下旬、武漢はゴーストタウンと化した。人も車も姿を消した。住民は町を脱出するか、自宅に引き籠もっていた。それでも感染者は増加した。習は国民に向かって感染の「加速」を警告した。やがて武漢以外の都市も恐ろしい感染拡大に見舞われるようになる。封じ込めの論理で行き詰まった中国共産党は、十八番の警察国家の強化に乗り出した。

一夜にして体育館、スポーツの試合会場、ホテル、大学の学生寮、会議センターなど、大人数を収容できる施設が、軽症患者を受け入れる「臨時医療施設」に変貌した。ずらりとベッドが並べられ、隔離された人々に食料と衛生用品を提供するとともに、定期的な検温を実施した。

しかし多くの人が検査など受けていないと不平を述べた。無理やり収容され、感染者かもしれない多数の人と一緒にされ、同じシャワーやトイレを使うよう強制されたという。

人々の不安感を見て取って習は責任転嫁を試みる。対策の陣頭指揮を執る責任者に李克強(リー・コーチアン)首相を任命して武漢に送り込んだ。加えて習は、SNSの微博(ウェイボー)などで封じ込め策に疑いを表明したり、自宅軟禁だとぼやくような「不誠実な言論」を強く非難した。

2月3日には各地の病院から検査キットの不足が報告された。一方で新規の感染者数は大幅に減っていた。中国国家衛生健康委員会が結成した専門家チームのある研究者は警告した。「今の武漢では早期検出、早期診断、早期隔離、早期治療ができない。国の支援を願う」

同じ日、中国共産党中央政治局常務委員会は新しい理屈をひねり出した。事態は管理不行き届きが原因で制御不能に陥ったというのだ。共産党は対ウイルス人民戦争の先頭に立ち、改めて隔離強化と流言飛語の弾圧に力を入れることになる。

新しい公式データを見る限り、対策は容易に見えた。犠牲者の80%は60歳以上、75%は既往症などでもともと体が弱い、なぜか子供は極めて少ない、66%は成人男性だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ビジネス

マスク氏報酬と登記移転巡る株主投票、容易でない─テ

ビジネス

ブラックロック、AI投資で各国と協議 民間誘致も=

ビジネス

独VW、仏ルノーとの廉価版EV共同開発協議から撤退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中