最新記事

中東

ホルムズ海峡まさかの緊張、英イランが互いに拿捕したタンカーの解放求め

U.K. Says Let Seized Oil Tanker Go, But Iran Wants Its Own Ship Back

2019年7月22日(月)18時40分
トム・オコナー

英船籍のタンカー、ステナ・インペロ(ステナ・ボークは所有者の名前)の上に飛来したイラン革命防衛隊のヘリコプター  ISNA/WANA/REUTERS

<トランプ政権の強硬政策を発端にして、イランとイギリスが一触即発の事態に>

ホルムズ海峡で7月19日、イランの革命防衛隊がイギリス船籍のタンカー「ステノ・インペロ」を拿捕した問題で、イギリスはタンカーの解放をイランに求め、制裁も検討し始めている。イランにしてみれば、これは報復だ(そう認めてはいないが)。英領ジブラルタル沖では4日、パナマ船籍のイランのタンカー「グレース1」が、EUの制裁に反してシリアに石油を運ぼうとしたとして英海軍に拿捕された。実のところそれはアメリカの要請だったと後でわかったときにはもう遅く、イランとイギリスは互いのタンカーを人質に睨み合っている。

<参考記事>「原油密輸タンカーを拿捕した」イランの2つの狙い

ジェレミー・ハント英外相は20日、イランのジャバド・ザリフ外相と電話で会談。ハントはその後ツイッターで、ステノ・インペロが拿捕されたことに「大きな失望を伝えた」と投稿した。その1週間前にイラン側は、ペルシャ湾で高まっている緊張を「緩和」させたいとの考えを「断言」していたにもかかわらず、「正反対の行動を取った」とハントは述べた。

イラン革命防衛隊(IRCG)が英船籍の船を拿捕したときの動画。IRCGが公開した


ハントはツイッターで「打開策を見いだしたいならば(そのプロセスは)言葉ではなく行動で」示されるべきだとし、「イギリスの船舶は保護されなければならないし、されるだろう」と述べた。

またハントは、内閣府ブリーフィングルームの会合で「(私は)イギリスが緊張緩和を望むことを再確認するとともに、ステナ・インペロがオマーン近海で国際法に反して拿捕されたことを確認し、ホルムズ海峡においてイギリスや各国の船舶の安全をいかに確保するかについて話し合った」とも述べた。

「イギリスはアメリカの経済テロの共犯者」

19日に非同盟諸国首脳会議出席のためニューヨークからベネズエラに向かったザリフもまた、ツイッターでグレース1の拿捕に触れつつ自らの考えを述べた。

グレース1の拿捕の直後、スペイン(イギリスと同じくEU加盟国だがジブラルタルの領有権を主張している)政府は、拿捕がアメリカの要請で行われたことを暴露。アメリカは核合意から離脱して以降、イランに対し経済制裁を科している。

ザリフは20日、ツイッターで「ジブラルタル海峡における(イギリスの)海賊行為と異なり、ペルシャ湾におけるわが国の行動は国際海洋ルールに則っている。ニューヨークでも述べた通り、ペルシャ湾とホルムズ海峡の安全を保証しているのはイランだ。イギリスはアメリカの経済テロの共犯者であるのをやめなければならない」と述べた。

イランの最高指導者アリ・ハメネイもイギリスの「海賊行為」を非難。ハメネイらイラン指導部は報復を示唆しているが、イギリスのタンカー「ブリティッシュ・ヘリテージ」がイラン革命防衛隊によって拿捕されそうになったが英フリゲート艦モントローズに阻止された、とするアメリカの主張については否定している。

革命防衛隊は19日、ステナ・インペロが拿捕された際のビデオを公開。また声明で、ステナ・インペロはナビゲーション機器のスイッチを切っており、誤った航路から海峡に入り、複数回の警告を無視したと主張した。

英リスクマネジメント会社Dyrad Globalが傍受した英船籍タンカー「ステナ・インペロ」拿捕時の通信記録。イラン側は「命令に従えば安全だ」と繰り返し、タンカーは「国際海域で航行を妨害するのは国際法違反だ」と抗議。イギリスによると、タンカーはこの後、強制的に国際海域からイランの海域に航行させられたという
今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米鉱工業生産、4月製造業は0.3%低下 市場予想下

ビジネス

米4月輸入物価、前月比0.9%上昇 約2年ぶり大幅

ワールド

EXCLUSIVE-トルコ、予算削減額は予想上回る

ビジネス

米金利維持が物価目標達成につながる=クリーブランド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 3

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃のイスラエル」は止まらない

  • 4

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 5

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 6

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 7

    2023年の北半球、過去2000年で最も暑い夏──温暖化が…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    仰向けで微動だにせず...食事にありつきたい「演技派…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中