最新記事

中国金融

中国がキャッシュレス社会を目指すのは百年早い

China Can’t Afford a Cashless Society

2018年9月12日(水)19時23分
ルイ・チョン

アリペイと微信支付のQRコードがある店では現金を断られることもある(江蘇省南通の豚肉店)REUTERS

<シリコンバレーのビッグ5のように自らの技術で社会を変えたいと燃える電子決済大手と、格差拡大と成長鈍化を恐れる政府、理があるのはどちらか?>

スマートフォンによる決済が加速する中国の金融規制当局は、オンライン決済大手の勢力拡大に警戒感を抱いている。都市部では、中国最大のSNSアプリ「微信(ウィーチャット)」を利用した支払いが前提になっているため、店側は釣り銭を用意していないことも多く、現金での支払いを一切断る場合もある。

こうした状況から、国有銀行は対策を急いでいる。中国人民銀行(中央銀行)の安徽省支店は最近、この問題に取り組むための作業部会を開始した。同省の省都、合肥市の金融当局者ワン・ヤーチョウは、現金決済拒否は非常に悪い影響を及ぼす可能性があるため、徹底的に禁止する必要があるとコメントした。

ワンのような規制当局者が憂慮するのは当然だ。中国の都市における「キャッシュレス化」の広がりは、経済不安という根本的な問題をむき出しにする恐れがある。モバイル決済の普及によって、若者と高齢者、そして裕福な都市部の中産階級と経済発展に乗り遅れた者の差が広がっている。

地方自治体による間違ったモバイル決済戦略も問題だ。中国政府が経済改革推進のためにできるだけ多くの消費者を必要としているその時に、高齢者と貧困層を消費経済から締め出すことにもなりかねない。

 数字が裏付けるキャッシュレス化

政策の問題として議論されているのは、モバイル決済は中国の通貨である人民元の法的な代替物になりうるのか、という点だ。規制当局は「キャッシュレス都市」のような取り組みが、中国の人民元管理法に違反していないかどうかを調べている。この法律には、人民元を「中華人民共和国の法定通貨」と明確に定義する条項が含まれており、「中国の領土内では、組織または個人による取引を目的とした人民元の使用を廃止することはできない」としている。

同時に、統計上の数字はキャッシュレス取引の増加を示している。中国サイバースペース管理局が2017年1月に発表したデータによれば、モバイル決済プラットフォームに登録されているユーザー数は4億6900万人。16年に比べて31.2%増加した。

別の政府機関、中国インターネットネットワーク管理センターの調査でも、モバイル決済を利用する割合が2016年末から2017年末にかけて57.7%から67.5%に増加したという結果がでている。都会では、ブランド品を扱う高級店から町の屋台まで、あらゆる店のレジのそばにオンライン決済を独占する2大企業、支付宝(アリペイ)と微信支付(ウィーチャットペイ)のカラフルな支払い用バーコード「QRコード」のステッカーが貼られている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パリのソルボンヌ大学でガザ抗議活動、警察が排除 キ

ビジネス

日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退=元IMF

ビジネス

独CPI、4月は2.4%上昇に加速 コア・サービス

ワールド

米英外相、ハマスにガザ停戦案合意呼びかけ 「正しい
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 10

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中