最新記事

ペット

イギリスで生後6ヶ月未満の子犬・子猫の販売禁止へ 日本では周回遅れの議論続く

2018年9月10日(月)15時05分
内村コースケ(フォトジャーナリスト)

生後約3ヶ月の子犬と成犬。主な先進国では、社会化や健康管理の観点から、これよりも幼い8週齢(生後約2ヶ月)未満の子犬の販売を禁じている。イギリス(イングランド)は、それをさらに6ヶ月に引き上げる法律を導入する。撮影:内村コースケ

<イギリス政府は先月、生後6ヶ月未満の子犬・子猫の販売を禁止する方針を発表した。劣悪な環境での繁殖や親元から幼いうちに引き離すことによる健康・社会化への悪影響を防ぐのが狙い。一方、日本では、既に英国などで常識となっている生後8週間未満の子犬・子猫販売の規制の是非が、今秋にも国会で審議される>

英国のイングランドで施行される見込みの新法は、通称「ルーシー法」と呼ばれている。悪徳ブリーダーの元からレスキューされたキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルの繁殖犬『ルーシー』の名にちなみ、英国内の複数の動物愛護団体が、子犬・子猫販売の規制を現状の8週齢未満から6ヶ月未満に大幅に引き上げるキャンペーンを張り、約15万人の市民の署名を集めていた。

ルーシーは、「パピーファーム(子犬工場)」と呼ばれる劣悪な環境下のウェールズの繁殖施設で数多くの子犬を産まされた末に、狭い檻に閉じ込められていた。動物愛護団体の手で推定5歳だった2013年に救出されたが、長年出産を強いられ閉じ込められていた影響で背骨の変形やてんかんなどの健康問題を抱えていて、3年後に死亡。救出後から今日まで、パピーファーム撲滅運動のアイコンになっていた。

新法では、ペットショップやインターネットオークションなどのペット販売業者(第三者)による生後6ヶ月未満の子犬・子猫の販売を禁止する。ブリーダーや保護施設との直接取引には適用されず、今後、子犬を迎えたい人は、認定ブリーダーかシェルターから入手することになる。

子犬・子猫の展示販売は悪徳業者の温床

英環境省によれば、政府の認可を受けたペット販売業者の数は、イングランドで100に満たないという。しかし、実際には英国全体でペットショップなどの第三者を通じて年間4万〜8万匹が販売されており、無認可の販売業者が横行しているのが実態だ(BBC)。

ルーシー法キャンペーンは、これが繁殖の実態の把握を困難にし、悪徳ブリーダーの横行の温床になっているとして、6ヶ月規制の導入を主張してきた。6ヶ月規制の施行は、事実上、ペットショップなどでの生体展示販売の撲滅を意味する。イギリスでは、それ自体は違法ではないにも関わらず、既に店舗での生体展示販売はほとんど見られない。一方で、インターネットを通じた子犬・子猫の販売がしばしば問題となっている。

かわいい子犬・子猫を目の前にすれば、連れて帰りたくなるのが人情だ。販売されている背景にまで思いを至らすのはなかなか難しいだろう。悪徳業者は、こうした心理を突いて幼い命を商品として扱う。つまり、ルーシー法キャンペーンを貫くのは、日本でもおなじみのガラスのショーケースや、ネットオークションの商品画像にかわいい子犬と子猫が並ぶ姿を撲滅すれば、儲け主義の乱繁殖や売れ残った子犬・子猫の殺処分といった問題も抑制することができるという理屈だ。

マイケル・ゴーヴ英環境大臣は、「第三者による販売の禁止は、我が国で愛情をたっぷり受けているペットたちに正しい一生のスタートを保証する」「私は、ルーシー法キャンペーンに敬意を表する」などと述べた。また、「ペットの福祉に全く敬意を払わない人たちは、もはやこの悲惨な取引によって利益を得ることはできない」と、悪徳業者の撲滅を宣言した(英政府HP/GOV.UK)。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

フィリピン船や乗組員に被害及ぼす行動は「無責任」、

ワールド

米大学の反戦デモ、強制排除続く UCLAで200人

ビジネス

仏ソジェン、第1四半期は減益も予想上回る 投資銀行

ワールド

EUと米、ジョージアのスパイ法案非難 現地では抗議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中