最新記事

虫歯治療

怖くて痛い虫歯治療に代わる、新たな治療法が開発される

2018年4月18日(水)16時45分
松岡由希子

怖くて痛い虫歯治療に代わる、新たな治療法が開発される oneblink-cj-iStock

<誰もが嫌いな虫歯治療。米ワシントン大学の研究で、不快な音も痛みもなく虫歯を治療できる新たな手法が見つかった>

従来、虫歯の治療といえば、歯科ドリルで患部を削るというのが一般的だった。ドリルが発する"キーン"という音に不安や恐怖を感じたり、時には痛みも伴うことから、患者が虫歯の治療をためらっているうちに、悪化させてしまうケースも少なくない。しかし、このほど、不快な音も痛みもなく虫歯を治療できる新たな手法が見つかった。

エナメル質を再石灰化させる実験

米ワシントン大学の研究プロジェクトは、歯の表面を覆うエナメル質の形成に不可欠なタンパク質の一種「アメロゲニン」に着目し、エナメル質を再生させることで、虫歯でできた歯の空洞を治療するという手法を開発。米国化学会(ACS)の科学雑誌「バイオマテリアルズ・サイエンス・アンド・エンジニアリング」で発表した。

歯のエナメル質は、「エナメル芽細胞」と呼ばれる細胞が「アメロゲニン」などのタンパク質を産生し、これらのタンパク質によって形成されていく。エナメル質が石灰化されると「エナメル芽細胞」は、やがて死滅するため、エナメル質が再生することはない。

一方、虫歯は、細菌が口腔環境で糖などの発酵性炭水化物を代謝し、その副産物として酸が生成され、これが歯のエナメル質を脱灰することから進行しはじめる。

これらのことから、研究プロジェクトでは、「『アメロゲニン』をベースとするペプチドによって、虫歯で空洞ができた歯のエナメル質を再石灰化できるのではないか」との仮説のもと、カルシウムイオンとリン酸塩を使った場合、フッ化物を使った場合など、6つのパターンで、エナメル質を再石灰化させる実験を行った。

toothschematic1.jpg

(ACS Publications)

処方はシンプルで、医薬品などとしても実装しやすい

その結果、「アメロゲニン」由来のペプチドだけが、歯の表面に付着し、カルシウムやリン酸イオンを集めることで、水酸燐灰石(Hap)を含む10マイクロメートルほどの厚さの石灰化層を新たに生成した。このように再石灰化されたエナメル質は、健康な歯のエナメル質の構造ともよく似ていたという。

この研究論文の筆頭著者であるメメット・サリカヤ教授は、この研究成果について「ペプチドによる再石灰化は、従来の虫歯治療を代替する手法のひとつとなるだろう」と述べるとともに、「ペプチドが配合された処方はシンプルで、医薬品などとしても実装しやすい」と評価している。

歯磨きやジェルなどの形態で実用化されれば、日々の虫歯予防にも取り入れやすいことから、とりわけ、歯のエナメル質の再生や強化に寄与する手法として期待されている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシア凍結資産、ウクライナ支援に早急に利用=有志連

ワールド

米の対ロ制裁、プーチン氏にさらなる圧力=NATO事

ビジネス

米9月CPIは前年比3.0%上昇、利下げ観測継続 

ワールド

カナダ首相、米と貿易交渉再開の用意 問題広告は週明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 4
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中