最新記事

ロシア

ロシア軍「外交発言力」高まる プーチンが後押しする狙いは?

2018年1月2日(火)11時46分


政策への介入

複数の米情報機関は、これ以外にもロシア軍が外交政策に介入している例として、昨年の米大統領選挙におけるロシア干渉疑惑への関与を挙げている。

米情報機関によれば、ロシア軍の対外諜報部門GRUは米民主党の職員や政治家のメールアカウントに対するハッキングを行い、トランプ氏の主要ライバルだったヒラリー・クリントン氏にとって世論が不利になるよう、メディアへのリークを画策したという。

ロシア政府はこうした容疑を否認している。

他にも、政治介入の例として、ロシア国防省は2015年12月、トルコのエルドアン大統領とその一族が、シリア及びイラク領内で過激派組織「イスラム国」の支配地域から石油を違法に密輸することで利益を得ている証拠をつかんでいる、と記者会見で発表した。

この告発は、トルコ空軍機がシリア・トルコ国境近くでロシア機を撃墜した1週間後の記者会見で行われており、エルドアン氏は誹謗中傷にすぎないと一蹴している。

この事件に対するロシア国防省の対応は、同国の外交官らに比べてはるかに厳しいものであり、米国務省や米国政府の外交政策に対する度重なる批判を含めた、幅広い広報政策の一環とみなされている。

その他に国防省が関心を示している地域としては、エジプト、スーダン、リビアがある。

ショイグ国防相は、先月モスクワで行われたプーチン大統領とスーダンのバシル大統領の会談にも参加している。またロシア国防省は1月、リビア東部の有力な軍指導者であるハリファ・ハフタル司令官を招き、ロシア唯一の航空母艦に乗艦させた。この訪問のあいだ、ハフタル司令官はショイグ氏と中東のテロ対策についてテレビ電話で協議した。

こうした出来事によって、ロシアが空軍基地と海軍施設を持つシリア以外に、イエメン、スーダン、アフガニスタンといった要衝にも拠点を広げることを計画しているのではないかという懸念が高まっている、と西側当局者はロイターに語った。

ロシア国内のアナリストや西側当局者は、ロシア国内の政策策定に関しても軍の影響力が拡大していると指摘する。デジタル経済から食料安全保障に至るまで、あらゆることについてプーチン大統領が軍の意見を求めているからだ。

理由の1つには、ウクライナからクリミア半島を奪取して以来、プーチン大統領が意志決定の方法を修正し、自ら議長を務める安全保障会議が扱う範囲を広げて、国内政策課題の多くについても討議するようになったことがある。

「ますます敵に囲まれるようになったとのロシア側の感情があるなかで、プーチン大統領は、あらゆる決定について、これまで以上に情報機関と軍に相談するようになっている。いつも彼らと会っている」。そう語るのは、シンクタンク「センター・フォー・ポリティカル・テクノロジーズ」の分析部門を率いるTatyana Stanovaya氏だ。

同氏は、軍が政策の原案を示すという意味ではないと述べた上で、プーチン大統領はこれまでに比べて軍の意見をはるかに重視するようになっており、国内政策分野でも軍が重要な発言権を持つようになっている、と語った。

(翻訳:エァクレーレン)

Andrew Osborn and Jack Stubbs

[モスクワ 13日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2017トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


ニューズウィーク日本版のおすすめ記事をLINEでチェック!

linecampaign.png

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

中国、自動車下取りに補助金 需要喚起へ

ビジネス

円安、物価上昇通じて賃金に波及するリスクに警戒感=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中