最新記事

中東

中東を制するのはサウジではなくイラン

2017年11月22日(水)20時00分
ジョナサン・スパイヤー

サウジアラビアとイランの対立を受けて緊急に開かれたアラブ外相会議(カイロ、11月19日) Amr Abdallah Dalsh-REUTERS

<若きムハンマド皇太子のサウジアラビアは、イランへの対抗意識をむき出しにしている。だが、シリアでもイラクでもレバノンでも代理戦争に勝ったのはイランだ>

サウジアラビアが中東各地で挑発的な動きを見せている。サウジに滞在中だったレバノンのサード・ハリリ首相に辞任を表明させたり、サウジの首都リヤドの空港を狙ってイエメンからミサイルが飛んできたときには激しい言葉で非難した。中東で影響力を争うイランに断固対抗する意志を示し始めたようだ。

攻勢を主導するのはムハンマド・ビン・サルマン皇太子(32)。皇太子の行動は一見、映画『ゴッドファーザー』で主人公のマイケル・コルレオーネがファミリーの敵に対して同時にいくつもの復讐を仕掛ける終盤を思わせる。しかし映画とは異なり、サウジアラビアの復讐は始まったばかり。しかもムハンマド皇太子はまだ中東でのイランの優位を覆す方法を見つけたとは言えない状態だ。

これまでの経緯を振り返ってみよう。サウジアラビアとイランは、中東のさまざまな場所で対立してきた。ここ10年の主な舞台は、イラクやレバノンなど機能不全に陥った国家、あるいはシリアやイエメンなどの崩壊国家だった。これらの国では紛争後の主導権争いが繰り広げられており、サウジアラビアとイランはそのすべての国で代理戦争を戦ってきた。

そして今のところ、どの国においても優位にあるのはイランだ。

レバノンはイランの支配下に

レバノンでは、イスラム教シーア派の武装勢力ヒズボラを抑えるためにスンニ派のサウジアラビアが支援していた政党連合「3月14日連合」がヒズボラに打ち負かされた。すでに2008年5月、ヒズボラがベイルート西部と周辺地域を制圧した事件は、イランの支援を受けたヒズボラのむき出しの軍事力の前にはサウジの支援勢力はなすすべもないことを如実に示した。さらにヒズボラはシリアの内戦にも参戦し、レバノン政府の手には負えなくなっている。

2016年10月には、ヒズボラが推すミシェル・アウンがレバノンの大統領に就任し、その2カ月後にはヒズボラが多数を占める内閣が成立。親イラン勢力によるレバノン支配は盤石となった。これに対抗してサウジ政府は、レバノン軍への資金援助を打ち切った。ハリリを辞任させようとしたのも、レバノンがイランの影響下に入ってしまった現実を踏まえてのことだろう。

シリアでは、バシャル・アサド大統領率いる現政権に対して、イランが資金や人員、ノウハウを提供しており、政権の崩壊を食い止めるのに決定的な役割を果たした。イランは自らの影響下にある勢力を思いのままに動員し、各地に新たな民兵組織を誕生させた。アサド政権はこれらの民兵組織を使って敵を敗北に追いやった。一方、サウジアラビアはシリアでスンニ派が中心の反体制派を支援してきたが、イスラム教を厳格に信仰するサラフィー主義者の台頭を許しただけだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ミネソタ銃撃事件で知事への電話拒否 「

ワールド

トランプ氏、イランの核兵器完全放棄望む 特使派遣の

ビジネス

金価格、年内に3000ドル割れも 需要低迷と成長見

ビジネス

韓国、対米通商交渉を加速へ 米韓首脳会談は中止
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中