最新記事
脳科学

ワインを楽しむと脳トレに? 味と香りの分析が脳を活性化

2017年8月18日(金)11時30分
モーゲンスタン陽子

gilaxia-iStock

<イエール大学医学大学院の神経科学者ゴードン・シェパード博士によると、ワインを飲む前にそのにおいを嗅いで分析することは、「音楽を聴いたり、難しい算数の問題を解いたりするよりも脳を活動させる」という>

以前は適度の飲酒が健康に良いとされていた時代もあったが、最近は飲酒の与える危険性を裏付けるような研究発表が多くなってきた。大量の飲酒が健康に悪いのは明らかだが、350mlのビールを日に1、2本飲むだけでも脳の海馬が萎縮するというイギリス医師会雑誌『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』(BMJ)の先月の発表はショッキングだった。

だが、少なくともワイン好き、そして脳との関連という分野において、ちょっとうれしいニュースもある。イエール大学医学大学院のゴードン・シェパード博士によると、ワインを飲む前にそのにおいを嗅いで分析することは、「音楽を聴いたり、難しい算数の問題を解いたりするよりも脳を活動させる」というのだ。

ワインそのものではなく「飲み手」に注目

著名な神経科学者である同博士の昨年末の著書『ニューロエノロジー:脳はどのようにワインの味を作り上げるか』(コロンビア大学出版)(「エノロジー」は「ワイン学、ワイン醸造法」の意)によると、ワインを味わうことは「体内で最も大きい筋肉の絶妙なコントロールを要する」とされる。つまり、灰白質を活性化し、脳の運動になるという。

一般的にワインテイスティングというと、まずワインの入ったグラスをくるくると回し(「スワリング」)、グラスを傾けて色や表面の透明な層をチェックし、次に口に含んで空気を吸い込み、液体を口の中で転がす。ときには、うがいのようにおおげさにやる場合もある。このとき、舌の複雑な筋肉組織は何千もの味蕾や嗅雷とともに忙しく味を分析し、刺激を脳に送る。これはただ「飲む」というのではなく、口全体を使った複雑なアクションだという。

ワインは赤でも白でも構わないようだ。ただし、博士が注目するのはワインそのものではなく、あくまでもその「飲み手」だ。博士は、味というのは従来考えられてきたよりもずっと「主観的」であり、誰もが味を体験し分析する過程で土台とするものは「飲み手、そして一緒に飲む相手の記憶と感情に拠るところが大きい」という。

NPRのインタビューで博士は味の分析を、光がどのように脳のシステムに働きかけ、それ自体色を持たない物体の色を作り上げるかに擬える。「ワインの微分子には味やフレーバーはありませんが、それが脳を刺激すると、脳が色を作り出すのと同じようにフレーバーを作り出すのです」と言う。

違いこそがワインを味わう喜び

同インタビューで博士は、2人でワイン1本をシェアするとしたら、2人は90%同じフレーバーを味わうだろうが、10%は異なるだろうと言う。しかしこの10%こそが「ワインを味わう喜びの一部」なのだ。

異なるフレーバーを感じる要素には唾液もある。唾液はワインを薄めると同時にそれと混ざり、その酵素がワインに含まれる微分子を分解し、それが「もともとワインに含まれていたのではない」混合物を生成する。唾液は、年齢、性別、アセトン含有量によって異なってくるが、時間帯や、飲み手が鬱状態にあるかどうかでも変わってくるという。そうなると、飲み手が感じるワインの味がそれぞれ違うのも納得できる。

【参考記事】世界初! あのワインの権威が日本酒の格付けを発表
【参考記事】いまワイン好きがソノマを訪れるべき理由

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米、対スイス関税15%に引き下げ 2000億ドルの

ワールド

ロシア黒海主要港にウクライナ攻撃、石油輸出停止 世

ビジネス

米ウォルマートCEOにファーナー氏、マクミロン氏は

ワールド

中国、日本への渡航自粛呼びかけ 高市首相の台湾巡る
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中