最新記事

北朝鮮

北朝鮮初のICBMは日本の領海を狙っていた?

2017年8月1日(火)17時00分
トム・オコナー

ミサイル実験の模様を眺める金正恩が机に広げた地図は脅しのメッセージ? KCNA-via REUTERS

<アメリカの軍事専門家の分析で、7/4に北朝鮮が発射したICBMは日本の排他的経済水域ではなく領海に落ちる予定だった可能性が浮上した>

北朝鮮が7月4日に行った初の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験で、金正恩党委員長は日本の排他的経済水域(EEZ)ではなく領海を狙った可能性もあることが、米ワシントンのコンサルティング会社の報告書で明らかになった。

手がかりとなったのは、実験の様子を双眼鏡で眺める金を撮影した1枚の写真だ。「7月4日の発射実験で、視察した金正恩の机の上の地図に描かれた予想飛行経路に、異様な点を見つけた。地図を詳しく分析すると、ミサイルの落下地点が日本の北海道南西部にある奥尻島沖になっていた」と、アメリカの戦略地政学的コンサルティング会社、ストラテジック・センチネルの報告書は指摘する。「地図通りの飛行経路なら、ミサイルは日本の領海に落下する可能性があった。日本の主権が及ぶ水域だ」

【参考記事】ICBMはミサイル防衛システムで迎撃できない

ストラテジック・センチネルの上級画像分析者ネイソン・J・ハントが地図の画像を拡大し、地図に描かれたミサイルの予想飛行経路と実際のミサイル飛行経路とに共通する特徴を比較したという。

なぜ目標の落下地点まで到達できなかったのかは分からない。だが、地図にはっきりと描かれた目標は、これまで北朝鮮が発射したミサイルの中で日本の本土に最も近く、日本の領海内に落下する初の事例になる恐れがあった。もしそうなれば、領土保全のために自衛隊が出動する事態になっていたかもしれない、と同報告書は指摘する。

【参考記事】迎撃ミサイル防衛に潜む限界

威嚇か本気か

北朝鮮は、7月4日から1カ月も経たない7月28日に2回目のICBM発射実験を成功させ、世界に衝撃を与えた。

ストラテジック・センチネルのCEOで報告書を執筆したライアン・バレンクローと、米ジョンズ・ホプキンス大学の北朝鮮分析サイト「38ノース」の常連寄稿者で今回の分析を手伝った航空宇宙工学者ジョン・シリングは、地図は金から西側への隠れたメッセージかもしれないと、英字紙ジャパン・タイムズに語った。

「北朝鮮は今まで以上に大胆になっており」、西側の反応を試すため限界を試してくるかもしれないと、バレンクローは言う。シリングは、北朝鮮が地図で威嚇したという説と、本気で日本の領海に落下させようとしたが何らかの理由で失敗したという説は、どちらもあり得る話だと言った。

一方で北朝鮮は、28日のICBMやそれ以前の弾道ミサイル発射実験を通じて、なりふり構わない姿勢を見せてきた。英国際戦略研究所のミサイル防衛の専門家で、38ノースに寄稿するマイケル・エルマンは月曜の電話会議で、北朝鮮の周辺地域には様々な国境の制約があるため北朝鮮がミサイルを発射する余地は極度に限定されるとしながらも、金正恩政権はミサイルが日本のEEZに落下しても「まったく気にしない」と語った。

(翻訳:河原里香)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

大企業の業況感は小動き、米関税の影響限定的=6月日

ビジネス

マスク氏のxAI、債務と株式で50億ドルずつ調達=

ワールド

米政府、資源開発資金の申請簡素化 判断迅速化へ

ワールド

訂正-セビリアで国連会議開幕、開発推進を表明 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中