最新記事

研究

自閉症の人はマーケティング・トリックに引っかかりにくいことが判明

2017年7月20日(木)17時45分
松丸さとみ

TommL-iStock

<英ケンブリッジ大学の研究チームによると、自閉症の人の場合、顧客心理を操作しようとするマーケティング・トリックによる選択のぶれが少ないことが分かった>

自閉症研究で著名な教授が実験

選択肢が多ければ多い方が目移りをしてしまう、ということを経験したことがある人は多いかもしれない。しかしこのほど行われた実験で、自閉症の人の場合、顧客心理を操作しようとするマーケティング・トリックをもってしても、選択肢にぶれが少ないことが分かった。

実験を行なったのは自閉症研究で知られるサイモン・バロン=コーエン博士が率いる英ケンブリッジ大学の研究チームで、心理学雑誌のサイコロジカル・サイエンスが伝えた。

実験は、自閉症スペクトラム症状(ASC)の成人90人と、定型発達の人(つまりASCでない人)212人を対象に、次のようなことを行なった。

【参考記事】自閉症が個性と認められるまで

「おとり」含む3製品から「ベスト」を選ぶ

オンラインで行われたテストでは、10の製品がそれぞれ3つの選択肢で2回提示され、その選択肢の中から毎回「ベスト」なものを選ぶように、と指示される。製品Aと製品B、そしてひっかけるための「おとり」の3つだ。

製品Aと製品Bは、それぞれ他方より優れた点と劣る点の2つの特徴がある。例えば製品が「USBメモリ」の場合、容量が32GBで耐用月数は20カ月の製品Aと、容量は16GBとAに劣るが耐用月数は36カ月とAより優れた製品B、といった具合だ。そして「おとり」は、例えば1回目の提示では容量が28GBで耐用月数が16カ月のUSBメモリ、というように、製品Aより劣るものが提示される。2回目の提示では容量12GBで耐用月数32カ月と、製品Bより劣るものが提示される。つまり、この3つの中で「ベスト」なものを選ぼうとしたら、普通なら「おとり」は選ばないことになる。

合理的かつ経済的に意思決定を下す場合、「おとり」は「ベスト」にはならないはずで、つまりは参加者が「ベスト」と感じる選択肢は製品Aか製品Bのうちいずれかで、常に同じものになるはずだ。しかし「おとり」があると、参加者の選択肢は「おとり」に影響されて毎回変わる可能性があるという。

例えば前述のUSBメモリの場合、ASCではない人は、製品Aと製品Bを単純に比較してどちらかを選んだ場合と比べ、Aより劣る「おとり」がある3つの中から選ぶ場合はその「おとり」に影響されてAを選ぶ人が多かったという。逆に、Bより劣る「おとり」がある場合は、Bを選ぶ人が多かった。科学ニュースサイト「サイエンス・アラート」はこの結果について、「誘引効果」という現象を挙げて説明している。つまり、選択肢が3つ以上の場合、真ん中にあるものを選ぶ傾向が強くなる、ということだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中