最新記事

イギリス

ブレグジット大惨事の回避策

2017年6月26日(月)09時45分
フィリップ・レグレイン(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス欧州研究所客員研究員)

だが、窮地に陥った英政府から和解の申し出があった場合、それをはねのけるのはEUにとっても賢い選択ではない。ドナルド・トランプ米大統領が、貿易面でも安全保障面でもヨーロッパとの協力に懐疑的な姿勢を示すなか、経済大国で核保有国でもあるイギリスを遠ざけるのは得策ではない。

では、ソフトブレグジットは具体的にはどのような形になるのか。まず19年3月のEU離脱後、数年間の移行期間が設けられ、イギリスは単一市場と関税同盟にとどまった状態でEUとの貿易交渉を開始する。激しい離脱論はそれまでに下火になり、現実路線が主流になっているだろう。

その間に政治家は、移民がイギリスの抱える全ての問題の原因ではないことを有権者に説明するべきだ。ノルウェーのように移民への社会保障給付を制限する緊急ブレーキ制度を設け、人の自由な移動を維持すれば、イギリスは単一市場にとどまれるだろう。

【参考記事】迷走ブレグジット、英国の未来は「元気印のレズビアン」に委ねられた

それが無理でも、関税同盟にとどまることはできるだろう。そうなれば関税や通関業務によってモノの自由な流れが妨げられることはなく、自動車工場が国外に移転することもない。イギリスはEU以外の国と貿易合意を結べなくなるが、サービス分野では引き続き可能だ。

最低でも、イギリスと27加盟国は建設的な精神に基づき、誠意を持って、政治的に可能な限り、人の自由な移動を確保できる深く幅広い自由貿易合意の締結を目指すべきだ。

政治環境の変化が激しい時代に、安定というものは存在しない。それは極めて危険な環境だが、その一方で誤った判断を正し、前向きな変化を起こすチャンスを与えてくれる。イギリスとEUは、そのチャンスを最大限に生かすべきだ。

From Foreign Policy Magazine

[2017年6月27日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「気持ち悪い」「恥ずかしい...」ジェニファー・ロペ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中