最新記事

北欧

中国とノルウェーの関係正常化、鍵は「ノーベル平和賞」と「養殖サーモン」

2017年4月18日(火)13時40分
鐙麻樹(ノルウェー在住ジャーナリスト&写真家)

「中国を批判できなくなったノルウェー、人権問題はタブーってどうなの」という目線


・DN紙(4/6)

オスロ大学アジア専門家Harald Bockman氏「ノルウェーが中国を批判できなくなったと指摘する声もある。政府がサインした文書は、ストルテンベルグ前政権が(劉暁波に)平和賞を授与したことは間違いであったと認めたことになる。ソルベルグ首相は否定するだろうが、事実上の謝罪に近い」


・Nationen 紙(4/11付)

投獄された平和賞受賞者はテーマにせず。「ノルウェーは平和賞授与がどれだけの結果を招き入れるか身にしみたことでしょう。ノルウェーと中国に対するダメージがあまりにも大きいため、ノルウェーはもう二度と同じことはしないでしょうね」と両国のビジネス関係の鍵を握る一人Zhaon Long氏は語る。


・Dagsavisen紙(4/8付)

同紙の開発編集者ヨハンセン氏による社説
ブレンデ外務大臣が唯一できたことといえば、中国を批判しないと約束すること。そうすると、ほら!冷え切っていた6年間にあたたかい風が吹いてきました。ノルウェーがサインした声明を要約するとこうです。中国の核となる関心ごとを弱体化させるようなことには批判も支援もしない。両国の関係が崩れることを避けるためには、なんだってすると。首相は人権において「いずれ取り組む」と言います。「今ではない」と。しかし、首相も外務大臣も、次がいつかは口にはしません。

人権問題の批判に対してソルベルグ首相はNTB通信局にこう答える。「発言や意思表示は自由であるべきだとは思います。しかし、同時にノルウェーとしての仕事はただ抗議するだけではなく、人権において話すことができるふさわしい状況を探すことです」。

劉暁波が授賞式に来たらどうする?

今回、中国がノルウェーと仲直りをする姿勢を見せた背景には、米国・トランプ大統領との関係に危機感を示したためと多くのメディアは指摘。

石油価格が落下し、「第二の石油」となる国を支える資源を探すノルウェー。EU非加盟であることから国の守りは固める必要があり、ロシアとの関係は悪化する一方。今、中国とのつながりを強化することで損はしない。

とはいえ、ノルウェーの政治家たちにとって、将来大きな悩みの種となるのは、劉暁波氏が釈放された時だろう。劉暁波氏は現地で平和賞を授与していないため、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー氏のように賞を受け取りにノルウェーを訪れることは可能だ。

しかしその時に、恒例となっている王室一家の授与式参加、首相たちとの公式の面会は実現するのだろうか?ノーベル平和賞がノルウェーに与える影響は良くも悪くも計り知れない。

Photo&Text: Asaki Abumi

yoroi-profile.jpg[執筆者]
鐙麻樹(ノルウェー在住 ジャーナリスト&写真家)
オスロ在住ジャーナリスト、フォトグラファー。上智大学フランス語学科08年卒業。オスロ大学でメディア学学士号、同大学大学院でメディア学修士号修得(副専攻:ジェンダー平等学)。日本のメディア向けに取材、撮影、執筆を行う。ノルウェー政治・選挙、若者の政治参加、観光、文化、暮らしなどの情報を数々の媒体に寄稿。オーストラリア、フランスにも滞在経歴があり、英語、フランス語、ノルウェー語、スウェーデン語、デンマーク語で取材をこなす。海外ニュース翻訳・リサーチ、通訳業務など幅広く活動。『ことりっぷ海外版 北欧』オスロ担当、「地球の歩き方 オスロ特派員ブログ」、「All Aboutノルウェーガイド」でも連載中。記事および写真についてのお問い合わせはこちらへ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル一時155円台前半、介入の兆候を

ワールド

英独首脳、自走砲の共同開発で合意 ウクライナ支援に

ビジネス

米国株式市場=S&P上昇、好業績に期待 利回り上昇

ワールド

バイデン氏、建設労組の支持獲得 再選へ追い風
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中