ニュース速報
ビジネス

アングル:中国で値下げ競争激化、デフレ長期化懸念 ブランド品は中古が人気

2025年06月14日(土)16時31分

 6月10日、中国の国有エネルギー企業で働くマンディ・リーさん(28)は自分へのご褒美として、たまに高級ブランドのハンドバッグを買うのを楽しみにしていた。しかし、勤務先の賃金を10%減らされ、家族が所有する不動産の価値が半分になって以来、中古品しか購入していない。写真は北京の中古品店に並ぶかばん。2020年10月撮影(2025年 ロイター/Carlos Garcia Rawlins)

Liangping Gao Casey Hall

[北京/上海 10日 ロイター] - 中国の国有エネルギー企業で働くマンディ・リーさん(28)は自分へのご褒美として、たまに高級ブランドのハンドバッグを買うのを楽しみにしていた。しかし、勤務先の賃金を10%減らされ、家族が所有する不動産の価値が半分になって以来、中古品しか購入していない。

5月に開店した首都北京にある「転転集団」の中古高級ブランド品買い取り・販売店を見て回っていたリーさんは「高額品への支出を削っている」と言及。「経済は間違いなく下向きになっている。私の家族の資産は(不動産危機で)大幅に目減りしてしまった」と語った。

中国経済にデフレ圧力が高まる中で、消費者の行動は一段の物価押し下げにつながる恐れがある形に変化しつつある。これによってデフレ構造が定着することへの懸念が生じ、中国の政策担当者にとっては悩みが深まる一方だ。

9日に発表された5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で0.1%下落した。自動車から電子商取引(EC)、コーヒーチェーンまでさまざまな業界では、過剰供給と家計需要低迷を巡る不安を背景に値下げ競争が激化している。

キャピタル・エコノミクスは調査ノートに「供給能力の根強い過剰状態が中国を今年と来年、デフレ基調にとどめ続けるとの考えに変わりはない」と記した。

新規事業者は、消費者の節約志向に商機を見いだそうとしている。飲食店では3元(0.40ドル、約60円)の朝食を提供するほか、スーパーマーケットは1日に4回も特売時間を設けている。エコノミストの間では、こうした値下げ競争はいずれ持続不能となり、敗者は廃業に追い込まれて失業者が発生し、デフレをさらに加速させかねないと心配する声が出ている。

コンサルティング会社の智研咨詢によると、消費者が価格に敏感となったため、コロナ禍以降で中国の中古ブランド品取引市場は急速に拡大して、2023年の年間成長率は20%を超えた。

ただ、そうした成長に伴って買い取りブランド品も激増し、かなりの安値で販売されるようになっている。

転転を含めた一部の新しい店では値引き率が最大で原価の90%と、近年の業界の平均値引き率30-40%をはるかに上回る。大手中古品取引プラットフォームでは、70%以上の値引き率が当たり前になりつつある。

市場調査会社Daxueコンサルティングのリサ・チャン氏は「現在の経済環境において、より多くの既存の高級品消費者が中古市場に流れている様子を目にしている」と指摘。一方で、売り手は競争激化のために値引きをより積極化していると説明した。

転転の店では、コーチの緑色のハンドバッグ「クリスティー・キャリーオール」は、持ち込んだ人の購入時の価格は3260元(454ドル)だったのに、219元(30ドル)で買うことができる。原価2200元のジバンシーのネックレス「Gキューブ」も、187元で買える。

別の中古ブランド品取り扱い企業の創業者は「売り手は前年比で20%ぐらい増えているが、買い手の数はほとんど変わっていない。中間層の給料は本当に下がっている。このような潮流になっている最大の理由は経済(環境)だ」と述べた。

この創業者の話では、上海や北京などの大都市には新規市場参入を可能にするほどの買い手がいるが、そのほかの地域ではこれ以上新手が加わる余地はない。「最近開いた店の大半は閉鎖になるだろう」という。

転転集団の店舗を歩き回っていた大学教授のリリー・チャンさんは、何か購入したかったわけではなかった。コロナ禍以来、高級ブランド品の支出はしていない。目的は、自分が持っているブランド品がいくらで売れるか知るためだった。

しかしながら、気分はすぐれなかった。「北京と上海の複数の中古ブランド品店に出向いたが、一様に買い取り価格をできるだけ安くしようとしている」と嘆いた。

※システムの都合で再送します

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カナダもパレスチナ国家承認の意向表明、イスラエルに

ビジネス

鉱工業生産6月は3カ月ぶりプラス、スマホ向け半導体

ビジネス

中国CATL、第2四半期純利益は34%増

ビジネス

クアルコムの見通し楽観的、アップル向け販売巡る懸念
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 4
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 7
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 8
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 9
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 10
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 10
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中