最新記事

医療

疑わしきは必ず罰するマンモグラフィーの罠

2017年3月10日(金)20時15分
リズ・サボ

危険度の見極めは難しく、医師は用心のため全ての乳癌を治療しようとする PicturePartners/iStock.

<乳癌検診は早期発見の利点が強調されてきたが、不必要な治療につながるリスクも無視できない>

マンモグラフィー(乳房X線検査)で腫瘍が見つかった女性のうち、およそ3人に1人は必要のない治療を施されている。増殖が遅く、基本的には無害なはずの腫瘍まで、この検査では引っ掛かるからだ――。

デンマークの研究チームが学会誌「内科学会紀要」にそんな論文を発表し、乳癌検診の功罪をめぐる議論が再燃している。

アメリカ癌協会の最高医療責任者で、この論文に対する見解を同誌に載せたオーティス・ブローリーによれば、この研究はマンモグラフィーで命拾いしたと信じている女性の一部が、実際には必要のない手術や放射線治療、化学療法で健康を害している可能性を指摘するものだ。

顕微鏡下では同じに見えてもあらゆる乳癌に同じリスクがあるわけではない。初期の腫瘍でも命取りになるものもあれば、それ以上は増殖せず、むしろ縮んでいくものもある。全ての小さな病変を一律に致死的と考えるのは「人種によって容疑者を絞り込む捜査手法」に似ていると、ブローリーは書く。

「見つかった癌を全て治療することで、救われる命はもちろんある」と、ブローリーは語る。「だが『治す』必要のない女性まで治してもいる」

そうした「過剰診断」の危険性は、専門家の間で昔から取り沙汰されている。だが乳癌検診を受ける一般女性の多くは、そんな議論を知る由もない。

【参考記事】パーキンソン病と腸内細菌とのつながりが明らかに

見直される検診の在り方

検診推進派の米放射線医学会は、マンモグラフィーが不必要な治療につながる可能性を認めつつも、過剰診断はデンマークの研究が指摘するほど多くないとみる。ブローリーも、乳癌の過剰診断率はだいたい15~25%と推定されていると指摘する。

「過剰診断の事例はとても少ない」と断言するのは、放射線医学会・乳腺画像診断委員会を率いるデブラ・モンティチョーロだ。女性を混乱させるという意味で、こうした論文は「有益ではない」とも彼女は言う。

一方、無用な治療は女性の健康を害するだけだと批判するのは、患者団体「乳癌と闘う全米連合」会長のフラン・ビスコ。放射線は心臓に負担をかけ、細胞を癌化させる恐れもある。ビスコによれば、副会長だったカロリーナ・ハインストローサも初期乳癌の治療に使われた放射線のせいで悪性の肉腫ができ、50歳で命を落としている。

検診のリスクを理解したくても、たいていマンモグラフィーについて耳にするのはいいことばかり。「この数十年、女性は早期発見の利点だけを説かれてきた」とビスコは言う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

焦点:税収増も給付財源得られず、頼みは「土台増」 

ワールド

米、対外援助組織の事業を正式停止

ビジネス

印自動車大手3社、6月販売台数は軒並み減少 都市部

ワールド

米DOGE、SEC政策に介入の動き 規則緩和へ圧力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 9
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中