最新記事

インタビュー

日本の地域再生を促すシビックプライドとは何か

[伊藤香織]東京理科大学 教授、シビックプライド研究会 代表

2017年2月23日(木)14時10分
WORKSIGHT

Photo: WORKSIGHT

<日本語の「郷土愛」と似ているが、先駆けは19世紀のイギリス。自分自身が関わって地域を良くしていこうとする、ある種の当事者意識に基づく自負心が、まちづくりの核になっていくと東京理科大学の伊藤香織教授は言う>

「シビックプライド(Civic Pride)」とは都市に対する市民の誇りを指す言葉です。

日本語の「郷土愛」といった言葉と似ていますが、単に地域に対する愛着を示すだけではないところが違います。「シビック(市民の/都市の)」には権利と義務を持って活動する主体としての市民性という意味がある。自分自身が関わって地域を良くしていこうとする、ある種の当事者意識に基づく自負心、それがシビックプライドということです。

自分たちがまちをつくり、動かしているという自負

シビックプライドという概念が広く認知されるようになった先駆けは19世紀のイギリスです。特に北部イングランド地域から中部にかけて工業や交易が急激に興って産業が発展し、多くの村が近代都市へと変貌していきました。これに伴い、地域の主役が王侯貴族や教会から中産階級へと移っていった。近代市民社会の始まりです。まちの拡大は他の地域からも人を呼び寄せ、地縁ではない人間関係が構成されるようにもなりました。

また、裕福な市民や社会改革者の登場で、役所、図書館、音楽ホール、公園、広場といった市民のための施設が市民の働きかけや寄付で建造されるようになり、自分たちが文化を勝ち取り、自分たちなりに誇りと力を持ってまちをつくり動かしているんだという自負が育っていきます。

しかも経済の繁栄、文化の成熟を受けて、当時の建築物の装飾はことに見事で美しいんですね。たとえば壮麗なホールを持つリーズ市庁舎は今でもシビックプライドの象徴と言われています。個性的な景観や街並みもシビックプライドを盛り立てていきました。

さらに、都市がたくさん生まれると都市間競争が激しくなり、その中で"おらがまち"の意識が強まっていった。それもシビックプライドの醸成を後押ししたと見られます。

仕事や趣味以外に、自らの存在価値を地域に見出す

シビックプライドという言葉は日本でも使われるようになってきました*。これはシビックプライドの概念が日本で急に立ち上がったということではなく、以前からこういうことは考えていたけれども、それを一言でいう言葉がこれまでなかったということだと思います。

また、働き方が変わったことも関係しているかもしれません。終身雇用が期待できなくなり、仕事一辺倒の生き方を見直す人が増えてきました。会社の外での自分の存在価値はどこにあるのかを考えたとき、家族や趣味の他に地域という選択肢も浮上してきたのではないでしょうか。

【参考記事】「ホームレス」を生み出さない社会を目指して

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

景気懸念再燃、ボラティリティー上昇も=今週の米株式

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、4週連続減少=ベーカー

ビジネス

アングル:FRB当局者、利下げの準備はできていると

ワールド

米共和党のチェイニー元副大統領、ハリス氏投票を表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本政治が変わる日
特集:日本政治が変わる日
2024年9月10日号(9/ 3発売)

派閥が「溶解」し、候補者乱立の自民党総裁選。日本政治は大きな転換点を迎えている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が増加する」農水省とJAの利益優先で国民は置き去りに
  • 3
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元で7ゴール見られてお得」日本に大敗した中国ファンの本音は...
  • 4
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 5
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...…
  • 6
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 7
    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…
  • 8
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 9
    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…
  • 10
    川底から発見された「エイリアンの頭」の謎...ネット…
  • 1
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つの共通点
  • 4
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 5
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 6
    死亡リスクが低下する食事「ペスカタリアン」とは?.…
  • 7
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 8
    再結成オアシスのリアムが反論!「その態度最悪」「…
  • 9
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中