最新記事

米大統領選

「トランプ大統領」を誰より危惧するイスラム教徒の不安

2016年11月8日(火)18時10分
ジェイソン・ル・ミエーレ

ニューヨーク5番街のトランプタワーの前でトランプ候補に抗議するイスラム教徒 Eduardo Munoz-REUTERS

<2016年11月8日米大統領選当日。固唾を飲んで投開票を見守るイスラム教徒の苦悩>

 米ニューヨーク市にあるマディーナ・モスク(イスラム礼拝所)でイマーム(集団礼拝の指導者)を務めるアブ・スフィアンは、アメリカを分断する米大統領選が進む中、イスラム教徒に対する暴力の連鎖が爆発的に広がる様子を間近で見てきた。8月にはニューヨーク・クイーンズ地区で、知人のイマームが朝の礼拝を終えてモスクから出たところを背後から男に頭部を撃たれ、助手とともに殺害された。今年初めには、彼と同じモスクに通うイスラム教徒の女性も、ニューヨーク・マンハッタン地区を歩行中に車に突っ込まれた。

固唾を飲むイスラム教徒

 いよいよアメリカの次期大統領が判明する火曜日は、ほとんどの国民が固唾を飲んで開票結果を見守るだろう。だが他のどの層よりも大きな不安を抱えて当日を迎えるのは、アメリカのイスラム教徒だ。共和党候補ドナルド・トランプが反イスラム感情や暴力をここまで煽った後では、たとえ民主党候補のヒラリー・クリントンが勝利したとしても、火曜日の夜を境に自分たちの身に何が起きるのか不安で仕方ないと、イスラム教の指導者たちは語った。

「2016年はモスクが攻撃される事件が急増し、過去最悪だった」と米イスラム関係委員会で政府業務を担当するロバート・マカウ所長は言った。「トランプは選挙集会でしきりにイスラムフォビア(イスラム恐怖症)を唱え、イスラム嫌いを根付かせた。偏狭な人種差別を勢いづかせ、ムスリム社会を狙った暴力を助長している」

【参考記事】戦死したイスラム系米兵の両親が、トランプに突きつけた「アメリカの本質」

 トランプはイスラム教徒を狙って、大衆の憎悪を煽ってきた。アメリカやヨーロッパでイスラム過激派やISIS(自称イスラム国、別名ISIL)のイデオロギーに染まったローンウルフ(一匹狼)型のテロ攻撃が続発したのを機に、イスラム教徒の入国禁止を訴えたのがよい例だ。

【参考記事】「イスラム教徒の入国禁止」を提案、どこまでも調子に乗るトランプ

 トランプの躍進と並行して、イスラム教徒に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)の件数も2001年9月11日の同時多発テロ以来最多を記録した。

「9.11のときよりひどい」

「イスラム教徒を取り巻く環境は当時より悪化した」とスフィアンは言った。「9.11以降は悲しみに包まれみんな傷ついていたが、今は当時と違う。仕組まれたように憎悪がはびこり、アメリカ社会がまるっきり分断されてしまった」

【参考記事】トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実

 テロの脅威からアメリカを守る救世主を自称するトランプは、事あるごとにイスラム教徒がアメリカの安全保障を脅かしているとやり玉に挙げた。アメリカにいるすべてのイスラム教徒にデータベースへの登録を義務付けるという主張は、多方面から批判を受けて撤回を余儀なくされた。だがイスラム教徒への監視を強化して、怪しい動きを察知すれば裏付けなくモスクを捜査させるという主張については撤回を拒んでいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中