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アメリカ政治

ポスト冷戦の民主党を再生させたビル・クリントン

2016年10月24日(月)14時33分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

 クリントンは、状況に応じて冷静に戦略を変更しながら、財政均衡、福祉改革、厳格な犯罪対策、北米自由貿易協定、世界貿易機関設立協定など、共和党の主張を部分的に取り込んだ中道的政策を次々と打ち出し、成功を収めた。

 国際政治学者の高坂正堯は、中道的政策はしばしば悪い結果をもたらすと指摘している。中道的な政策はどっちつかずの方策に堕すことが多く、2つの政策の「悪いところ取り」のようになってしまうからである。

 だが、クリントンは中道的政策を取りつつも、大きな成果をあげている。

 これはクリントンが状況を把握する認識力に優れ、2つの異なる政策から正しく取捨選択を行い、力強く行動する決断力に優れていたことの証左にほかならない。高坂は、このような政治術を「技芸」と呼んでいるが、クリントンが技芸に抜きんでた政治家であったことに疑いはないであろう。

 また、外交では冷戦後の地域紛争やテロなど、新しいリアリティの潮流を見極めつつ、柔軟に対処していった。

 クリントンは「封じ込め戦略」のような原理原則に基づいて定式化されたのとは異なる、臨機応変の外交を展開することで、新たな国際社会のリアリティに対応しようと試みたのである。

 この意味でビル・クリントンは透徹した「リアリスト」でもあった。

 反面、クリントンには欠点も多くあり、失策も少なくなかった。

 モニカ・ルインスキーとの一件からうかがわれるように、クリントンの言動はしばしば作為的で誠実さに欠け、失敗の原因を外部に転嫁する傾向があったように感じられる。この点で、クリントンはやはり道義的に率先垂範をなす指導者だったとは言いがたい。 


『ビル・クリントン――停滞するアメリカをいかに建て直したか』
 西川 賢 著
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