最新記事

アフリカ

住民に催涙弾、敵前逃亡、レイプ傍観──国連の失態相次ぐ南スーダン

2016年8月30日(火)18時44分
ジョアンヌ・マリネール(国際人権団体アムネスティ・インターナショナル、シニアアドバイザー)

Adriane Ohanesian-REUTERS ジュバの国連基地で避難民に援助物資を配るPKO隊員

<激しい内戦が再燃した南スーダンで、国連基地に身を寄せる民間人の命を危険にさらす失態が何度も繰り返されていた>

 国連なら助けてくれるに違いないと思って彼らはきた。しかし国連の警察官は危険を逃れてきた彼らに銃を向け、来た場所へ戻れと命令。避難民がためらうと、催涙ガス弾を発射した──。

概要

 それは7月12日の午前9時過ぎだ。当時、南スーダンの首都ジュバでは数日間で300人以上の死者を出す大規模な戦闘が起こり、数千人の住民が国連基地内に避難していた。その2日前には、国連が設置した文民保護区(PoC)の施設内にまで銃弾や砲弾が飛んできたため、避難住民の一部は、国連職員が避難するためより安全に作られた中核施設への避難を余儀なくされた。ところが、国連安保理が即時停戦を求めると、散発的とはいえ戦闘がまだ続いているにも関わらず、危険なPoCに戻るよう避難民に強制した。ただでさえ、恐怖と飢えで疲れ果てた避難民に。

【参考記事】邦人も避難へ、緊迫の南スーダン情勢と国連

 国連の警備員から催涙ガスを浴びせられたというヌエル族の高齢の男性は、「国連が住民の信頼を取り戻すには、相当長い時間がかかるだろう」と言った。

 南スーダンでは、計8つの国連基地で約20万人の住民が避難生活を送っている。だが国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが8月に行った聞き取り調査では、7月に内戦が再発して以来、ジュバ郊外のジェベルにあるPoCで避難生活を送る避難民の多くは想像以上の恐怖や不安に苦しんでいる実態が明らかになった。

 さらに数々の証言から、国連の平和維持活動(PKO)部隊や国連の警察官は助けを求める数千人の避難民の保護を怠っただけでなく、より安全な国連基地の中核施設から避難民を強制的に排除し、重大な生命の危機に追いやっていたことがわかった。

【参考記事】南スーダンを駄目にする国際援助

 昨年8月に南スーダン統一政府の発足を目指して調印された停戦合意は、7月の衝突後に事実上破たん。それ以来、1万3000人のPKO隊員を指揮下に置く国連南スーダン派遣団(UNMISS)は、国連の基地内や基地周辺に身を寄せる住民の保護を度々怠ってきたとして、厳しい批判にさらされている。

 7月には、ジェベルのPoCのすぐ外で南スーダン政府軍の兵士らが数十人の住民をレイプする事件も発生。現場付近くにいたPKO隊員は少なくとも1人の女性が性的暴行に合う現場を目撃していたとされるが、制止しなかった。

【参考記事】中国人作業員も襲われたスーダンの混沌

 また居住用のテレイン居住区では7月11日、地元や外国の援助団体の職員が南スーダン兵の集団に襲撃される事件が発生。国連は救助要請を受けたにも関わらずPKO部隊は出動せず、1人が死亡、数人の職員が集団レイプされた。同キャンプはジェベルの国連基地から1.6キロ圏内にある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪就業者数、8月は5400人減に反転 失業率4.2

ビジネス

イーライリリー経口肥満症薬、ノボ競合薬との比較試験

ワールド

トランプ氏、反ファシスト運動「アンティファ」をテロ

ビジネス

機械受注7月は4.6%減、2カ月ぶりマイナス 基調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中