最新記事

インタビュー

世界的にまだ新しい手法「コ・クリエイション」の5つの原則

2016年8月26日(金)18時07分
WORKSIGHT

実行力を高めるための関係性を構築する

 原則の3つ目は、実行力を高めるための関係性の構築である。コ・クリエイションがいかに多くの恵みをもたらすかを訴えても、「時間がない」「縦割りの壁がある」「やることが多すぎる」「社内のサポートが足りない」「予算がない」といった課題が立ちふさがるケースは珍しくない。

 しかし、こうした課題に直面したときこそ、デザインのチャレンジの機会であることを肝に銘じておきたい。「新しいことにチャレンジする際に制約がある、その時こそデザイナーや組織のリーダーはプロジェクトの一環として課題に耳を傾け、対処するためにコ・クリエイションを進めていかなければならないのです」とラウ氏は説く。課題に正面から向き合うことで制約が解かれ、達成への新たな道が開かれる。これが真に実行力のある組織へ、そして本当のコ・クリエイションを実現できる組織になるための方策だ。

 ただ、社内でデザインの重要性を訴えても上層部がなかなか理解してくれないという悩みもあるだろう。そういう場合はまず小さいところから着手していく。身近なマネジャーにコンセプトを評価してもらって味方につけるのだ。その人がきっかけとなって社内に浸透していくかもしれないし、場合によっては上層部へのプレゼンにつながるかもしれない。

 すべての人が一致団結して共通のゴールに向かう状況を作り出すことが重要である。それには透明性や整合性のあるプロセスを可視化することだ。顧客、社内外のチーム、開発に協力するパートナーなど、ステークホルダーの利害が複雑に絡み合う中で、GEではまず信頼関係の構築から着手するという。容易なことではないが、目標はコ・クリエイションのプロセスが機能し、それが結果につながっていると示すことにある。これができれば、より多くの人々が方針に従ってくれるだろう。

wsRau_2-pic1.jpg

共感がもたらす価値を社内で啓蒙し、ユーザーに共感できる土壌を作る

 4つ目の原則は共感がもたらす価値を啓蒙し、デザイナーやリサーチャーに限らず誰でもエンドユーザーのニーズに共感できる土壌を作ることだ。

 デザイナーやリサーチャーは共感の重要性をよく語るが、新製品の開発チームの全員がエンドユーザーのニーズを本当につかんでいるかどうかはわからない。そこでラウ氏は、デザイン経験の浅い人を積極的にコ・クリエイションに参加させるという。GEのデジタル製品が導入される現場の調査に連れ出し、リサーチのパートナーに起用するのである。

 エンドユーザーの思いはどうすれば理解できるのか。フィクションではなく、リサーチに基づいたペルソナはどう作ればいいのか。リサーチに基づいていることをどのように確認すればいいのか。デザイナーにとっては馴染みのあるこうした作業を、デザインの新人にも体得してもらわなければならない。

「みんなが参加するという包摂性が大切です。これによって社内にデザインとリサーチを大切にするマインドの種がまかれます。社外に対しても、さらなる先進性を示すことになるでしょう」(ラウ氏)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 5

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中