最新記事

韓国

韓国総選挙の惨敗と朴槿恵外交の行方

予想外の与党敗北で朴大統領の求心力低下は確実。慰安婦問題とミサイル防衛への影響は?

2016年4月27日(水)17時00分
ロバート・E・ケリー(本誌コラムニスト、釜山大学准教授)

朝鮮半島 韓国経済の不振と慰安婦合意への反発が朴への思わぬ逆風に? The Presidential Blue House/News1-REUTERS

 韓国の保守系与党・セヌリ党は先週の総選挙(定数300)で惨敗し、国会の過半数を失った。獲得できたのはわずか122議席。無所属で当選した離党組7人の復党で第1党は維持する見込みだが、与党が選挙で少数派に転落したのは16年ぶりだ。

 最大野党の「共に民主党」は123議席を獲得。同党を離脱した安哲秀(アン・チョルス)の率いる新党「国民の党」は38議席と予想外の健闘を見せた(残りの議席は正義党が6、無所属11)。朴槿恵(パク・クネ)大統領は国会を野党に握られた状態で、残り1年10カ月の任期を乗り切らなくてはならない。

 それにしても、予想外の結果だ。これまで左派(野党)は内輪もめを繰り返し、朴の政策に有効な反撃ができなかった。昨年末に安が「共に民主党」から離脱したことで、左派の支持票は割れるという見方が大勢だった。セヌリ党は大部分の世論調査で2桁のリードを保ち、朴の党内支持率は78%に上った。

 高齢化が進む韓国の有権者は、もともと右派寄りだ。有権者の40.9%を占める40代と50代の大多数は、忠実なセヌリ党支持者。彼らは若い有権者に比べ、安全保障と外交を重視する。北朝鮮による4回目の核実験やミサイル発射が続く今年は、安全保障問題がかつてなく重要なテーマになっていた。

【参考記事】いざとなれば、中朝戦争も――創設したロケット軍に立ちはだかる

立法府と行政府のねじれ

 それでもセヌリ党が負けたのは、若い有権者の投票率が高かったからだ。若者の失業率は過去最高の12.5%。韓国全体の失業率の2倍以上に達している。就職できた若者も、低賃金と重い家計債務に苦しんでいる。昨年末に1兆ドルを超えた韓国の家計債務は、世界最悪レベルだ。

 韓国の輸出は中国経済の減速で不振が続き、特に主力産業の石油化学と造船が大打撃を受けている。こうした要因が絡み合い、若い有権者は中道を掲げる安の新党に投票したようだ。

 セヌリ党にとって、激しい議論の的となっている日本との「慰安婦合意」が政治的重荷になったのは明らかだ。朴は昨年中の決着にこだわり、日本側と合意にこぎ着けたが、多くの国民は失敗だったと感じている。

【参考記事】慰安婦問題、歴史的合意を待ち受ける課題

 交渉が秘密裏に進められたことは、多くの活動家を怒らせた。慰安婦合意が、韓国はこれ以上国際会議でこの問題を持ち出さないとしていることにも、NGOや市民グループが猛反発している。

 韓国の国内政治は手詰まり状態に陥った。野党3党に野党系無所属の当選者を加えると、左派は国会定数の57%を占める。もし野党側が一致結束すれば、朴政権が提出する法案の成立を容易に阻止できる。逆に野党主導の法案を通すことも可能だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

OPECプラス、7月以降も増産継続へ 自主減産解除

ワールド

バチカンでトランプ氏と防空や制裁を協議、30日停戦

ワールド

豪総選挙は与党が勝利、反トランプ追い風 首相続投は

ビジネス

バークシャー第1四半期、現金保有は過去最高 山火事
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 5
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 6
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 7
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 8
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    海に「大量のマイクロプラスチック」が存在すること…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 5
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 9
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 10
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中