最新記事

韓国

韓国総選挙の惨敗と朴槿恵外交の行方

2016年4月27日(水)17時00分
ロバート・E・ケリー(本誌コラムニスト、釜山大学准教授)

 一方、朴は国会を通過した左派の法案に拒否権を行使できる。野党が大統領拒否権を覆すには議員の3分の2の賛成が必要だが、セヌリ党はこれを阻止できるだけの議席を維持している。

 つまり、韓国は立法府と行政府を異なる政党が支配する「ねじれ」の時代に突入した。この政治的均衡状態の下では、新法の成立はほぼ不可能になる。朴のレームダック化はますます加速することになりそうだ。

 次期大統領選は来年12月。通常、大統領の求心力はその数カ月前から低下するが、朴は任期切れまでの1年10カ月間、何もできなくなる可能性がある。

 対外関係では、韓国の左派は伝統的に北朝鮮に甘く、日本とアメリカに厳しい傾向がある。それでも、(アジアの民主主義国の多くはそうだが)韓国の議会は外交にあまり口出ししないので、外交路線が劇的に変わることはないだろう。

 ただし、内政と外交が交錯する2つの問題では、左派勢力の今後の動向が大きな影響を持つ可能性がある。

国民的合意への好機か

 1つは、慰安婦問題だ。久々に政治的な力を手にした左派は、
右派の朴政権により水面下で交渉された日韓合意を覆そうと動くのか。合意内容の変更を求めたり、国際的な場でこの問題に関して対日批判を行わないとの約束を拒絶したりする可能性もある。その場合、日韓関係は激しい対立に逆戻りするだろう。

 とはいえ、これは民主的な選挙で選ばれた大統領が結んだ合意だ。その点で、軍事独裁者だった朴正煕(パク・チョンヒ)(現大統領の父)が65年に締結した日韓基本条約以上の正統性がある。

 もし合意をほごにすれば、国際的な合意を守れない国という不信感を持たれることは避け難い。これは、韓国メディアでもしばしば指摘されている点だ。大半の識者は、慰安婦合意は日本に譲歩し過ぎだが、合意は守るべきだと主張している。

【参考記事】韓国総選挙、与党惨敗で慰安婦合意はどうなるか

 左派が合意の見直しを求めなければ、暗黙に合意への超党派の承認が得られたことになる。そうなれば、慰安婦合意は1つの政党や1人の大統領の合意ではなく、主要な政治勢力がほぼ異を唱えない国民的な合意に昇格する。それは、日韓関係にとって大きな前進になるだろう。

 これと似た構図なのがミサイル防衛の問題だ。北東アジアの地政学的状況は、「ミサイル化」してきている。北朝鮮が核・ミサイル開発を進めているように、ドローンやロケット、その他の無人の空軍力の重要性が急速に増しており、空母や駆逐艦による抑止力だけでは不十分になり始めているのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「気持ち悪い」「恥ずかしい...」ジェニファー・ロペ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中