最新記事

インタビュー

「ホームレス」を生み出さない社会を目指して

[川口加奈]NPO法人Homedoor 理事長

2016年2月25日(木)15時42分
WORKSIGHT

対症療法でなく問題を根本から解決する

「ホームレス」というと、多くの人が自分とは関係のないこと、他人事だと考えるのではないでしょうか。

 でも失業したり、病気やけがで働けなくなると、貯金を取り崩すことになり、家族や住まいにまで影響が及びます。結果として居場所を失い、路上生活に追い込まれる人は意外に多いのです。ホームレス状態は誰にとっても無縁ではなく、どんな人でもなり得るということです。

生命の危険にさらされる過酷な路上生活

 ホームレスの人の多くは収入を得るため、廃品回収の仕事をしています。大阪の相場では、アルミ缶は1kgあたり80~130円、段ボールは1kgあたり8~10円で業者に買い取ってもらい、1日平均800~1000円の収入を得ます。

【参考記事】日本の貧困は「オシャレで携帯も持っている」から見えにくい

 栄養状態、衛生状態は悪く、過酷な路上生活で凍死や餓死、自殺をする人もいます。また、心ない人からいたずらされたり、場合によると命の危機にさらされるような襲撃を受けることもあります。

 寒さや恐怖を取り除くためにお酒を飲み、昼間に仮眠を取ったりもするので、そうした姿を見て「怠け者だ」「ホームレスになるのは自業自得だ」という誤解を持つ人も少なくありません。しかし、こんな過酷な生活ですから、誰も好き好んで路上生活を始めるわけではないのです。

 一方で、一度ホームレスになってしまうと、なかなか抜け出すことができません。住所がないので就職活動は困難を極めます。生活保護を受ければ居宅生活はできるものの、負い目や孤独感から3割近くの人が再び路上生活へ戻ってしまいます。身体的・知的・精神的障がいを抱える人、過酷な路上生活で障がいをより深刻化させる人、障がい者手帳を取得できるかどうかのボーダーラインにいる人など、自分で助けを求めることができない人も多くいます。

【参考記事】世界人口の半分と同じ富が62人の富豪に集中

「出口作り」「入口封じ」「啓発」の3本柱

 私が理事長を務めるNPO法人「Homedoor(ホームドア)」では「ホームレス状態を生み出さない日本の社会構造を作る」というビジョンを掲げて、大きく3つの支援を行っています。

①出口作り
②入口封じ
③啓発活動

 ①の出口作りというのは、ホームレス状態から脱出したいと思った人に就労支援をすることです。例えばホームレスの人々が修理した自転車を一般にレンタルするシェアサイクルシステム「HUBchari(ハブチャリ)」、寄付された不要なビニール傘をホームレスの方や生活保護受給者がリメイクして販売する「HUBgasa(ハブガサ)」といった事業を通じて、中間的就労の場を用意しています。

wsHomedoor_1.jpg

HUBchariの自転車を整備するスタッフ。(写真提供:Homedoor/5点とも)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

韓国製造業PMI、4月は約2年半ぶりの低水準 米関

ワールド

サウジ第1四半期GDPは前年比2.7%増、非石油部

ビジネス

カタールエナジー、LNG長期契約で日本企業と交渉

ビジネス

アップル、関税で4─6月に9億ドルコスト増 自社株
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中