最新記事

ヨーロッパ

脱「敗戦国」へ、ドイツの選択

ナチスの負の遺産を引きずってきた欧州一の経済大国が軍事面でも応分の責任を果たし始めた

2016年1月21日(木)16時22分
レヌカ・ラヤサム

戦後70年を経て 域外での任務が増えてきたドイツ兵たち Alexander Koerner/Getty Images

 ドイツ連邦議会が先月に自国軍の国外派兵を可決した審議で特筆すべきは、拍子抜けするほどあっさり承認されたことだ。議会はテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)掃討作戦に協力するため、シリアなどへ1200人規模の派兵を可能にする政府案を圧倒的多数で可決した。ドイツ軍はアメリカ主導の有志連合に合流して後方支援や偵察に当たるが、戦闘には加わらない。

 ドイツ軍はNATO軍の一員としてヨーロッパの防衛義務を負うが、NATO域外への派兵には議会の事前承認が必要だ。今回、政府案がすんなり承認されたことは注目に値する。

 ほんの数年前なら国民の大部分が受け入れなかったはずだが、今回は反対派も諦め顔だった。野党・左派党なども加わった反戦デモが行われたが、採決にはほとんど影響を与えられないだろうと、同党の外交政策責任者であるシュテファン・リービッヒ議員は採決前夜に語っていた。国外の軍事作戦への参加に「ドイツ人はノーと言えなくなっているのではないか」。

 戦後数十年間、ドイツ人は軍事力の増強と行使に懐疑的だった。ドイツは20世紀に2度戦争を仕掛けて敗れており、軍は二度と国外の出来事に首を突っ込むべきでないというのが多くの国民の気持ちだ。これまで域外派兵をめぐる議会での議論は紛糾しがちだった。91年の湾岸戦争の際には、ドイツは結局、多国籍軍に人的参加しなかった。

 だがドイツがヨーロッパ最大の経済国となった今、この国の指導者らは同盟国からの派兵要請に応じるようになっている。

 シリア派兵をめぐる採決からは域外派兵に対する世論の反発が薄れていることがうかがえる。ベルリンでは東西ドイツ統一の象徴であるブランデンブルグ門付近での反戦デモに約2000人が参加したが、リービッヒの予想どおり議員の考えを変えさせるほどではなかった。

タブーだった域外派兵

 第二次大戦後、戦勝国はドイツ軍が二度とヨーロッパと世界を脅かすことのないよう措置を講じた。再教育によってドイツ人の心に軍に対する猜疑心を植え付けた。軍の活動は憲法に当たる基本法によって防衛のみに限定された。「ドイツ国民は平和主義者になるべく教育されている」と、ベルリンの連邦安全保障政策アカデミー(BAKS)のカールハインツ・カンプは言う。

 ドイツが戦後、域外に派兵したのは92年にカンボジアの国連平和維持部隊に衛生兵を派遣したのが最初。湾岸戦争で「小切手外交」と批判されたことを受け、議会承認による域外派兵を可能にしたのだ。しかしその後も同盟国への資金援助が主流だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

現代自動車、中国販売倍増へ 北米で36車種投入計画

ビジネス

午前のドルは159円半ばで底堅い、上攻めの手掛かり

ワールド

米の対台湾武器売却、計画通り進展 国防部長が表明

ワールド

トランプ氏、5月14─15日に訪中 「歴史的な訪問
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 2
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「日本産ミュージカルの夢」に賭ける理由【独占インタビュー】
  • 3
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終回に世界中から批判殺到【ネタバレ注意】
  • 4
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 5
    「有事の金」が下がる逆説 イラン戦争で市場に何が…
  • 6
    デンマーク王妃「帰郷」に沸騰...豪州訪問で浮かび上…
  • 7
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 8
    地上侵攻もありえる...イラン戦争が今後たどり得る「…
  • 9
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 10
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 1
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 3
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 6
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 9
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中