最新記事

中国災害

深セン土砂崩れ遠因、党と政府側の責任者は?――浮かび上がった不正の正体

2015年12月23日(水)15時03分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 王栄は2015年2月9日に深セン市書記の地位を離任し、広東省政治協商会議の委員に異動となった。このとき中国内外の中文メディアは「ついに王栄が捕まる」「中央紀律検査委員会の調査を受けることになった」などと噂をしたが、王栄は結局政治協商会議の副主席に選ばれた。政治協商会議というのは名ばかりの閑職で、実権は持っていないから、「市」から「省」へと昇格したように見えるが、実際上は降格ということになる。

 おまけに深セン市書記から離れた時期が、どうも怪しすぎる。なぜなら2015年2月は、まさに今般土砂崩れを起こした土砂堆積場の許容量がオーバーし、土砂運搬期限が切れてしまった時期と一致している。2010年から汪洋が国務院副総理として広東省から去る2013年3月の期間における王栄の行動と、2013年7月以降の緑威公司の異常なまでの「落札ぶり」を知っている周辺の者が、「逃げた」というイメージを持ってもおかしくない。

 深セン市の市長に関して言うならば、2010年6月からは許勤という人物が市長になっているが、彼は専ら北京中央で科学畑や国家発展委員会におけるハイテク担当などに従事した学究肌の人間である。また2015年2月という分岐点となる時期に奇怪な移動をしていない。

 もちろん、深セン市における「非科学的土砂堆積」という現象に対して、責任がないわけではないだろう。ただ、書記はその行政区分の最高決定権を持つトップで、市長はその下の身分なので(共産党委員会が上)、王栄が利害関係を握っていれば、誰も手出しはできない。

今年1月に「環境報告書」が危険を警告

 実は2015年1月12日に「建設項目環境影響報告表」というものが出されていたことを「法制晩報」が深セン市光明新区政府のウェブサイトで見つけた。その環境報告書は、今般の事故があった土砂堆積場に関して、土砂崩れの危険性があることを警告している。

 これに対して深セン市の城管(都市管理)部門が今年5月に視察を行い、「問題あり」としている。さらに7月には、現場の経営権を持ち責任があるはずの緑威公司と、実際に土砂を運搬している会社が異なることに気がついた。そこで9月に、これ以上土砂をここに放棄しないように命じた。

 にもかかわらず、土砂は崩壊の前日まで放棄され続け、堆積量は膨れ上がる一方だったという。

 そこで実は前出の「新華社」深センのウェブサイト「新華網‐新華視点」には、この後、城管部門や不動産部門の責任者を取材した記録が載っていたのだが、23日朝6時40分に再度アクセスしたときには、検閲により削除されており、「この記事は時期が過ぎています」という表示があるのみだった。この記事を転載した中国共産党機関紙「人民網」やsohuなどのページも数多くあるが、すべて一斉に内容が削除されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

OPECプラス、7月以降も増産継続へ 自主減産解除

ワールド

バチカンでトランプ氏と防空や制裁を協議、30日停戦

ワールド

豪総選挙は与党が勝利、反トランプ追い風 首相続投は

ビジネス

バークシャー第1四半期、現金保有は過去最高 山火事
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 5
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 6
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 7
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 8
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    海に「大量のマイクロプラスチック」が存在すること…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 5
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 9
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中