最新記事

債務問題

ナチス賠償金を要求するギリシャの破れかぶれ

金融支援交渉のさなかに戦時賠償を持ち出すギリシャにドイツは大激怒

2015年4月8日(水)15時59分
アリソン・ジャクソン

消えない遺恨 ギリシャ側は過去の賠償は十分ではないと主張(写真は戦時中にナチスに虐殺されたギリシャの人々の遺骸) John Kolesidis / Reuters

 これ程、都合の良いタイミングはないだろう。

 ギリシャのユーロ圏離脱がますます現実味を帯びる中、金融支援交渉でドイツと対立するギリシャが、形勢逆転を狙って反撃に出た。第二次大戦中のナチス・ドイツのギリシャ占領に関して、数千億ドルの賠償金支払いをドイツに求めている。

 ロイターの報道によると、ドイツのジグマル・ガブリエル副首相兼経済エネルギー相は、この要求を「馬鹿げている」と切り捨てた。要するにギリシャが債務危機を乗り越えるための資金をユーロ圏諸国から絞り出すための策略だ、と断じた。

 国際通貨基金(IMF)に対する約4億8700万ドルの債務の返済期限が9日に迫った今週、ギリシャ財務省は初めて公式にドイツの賠償金が3020億ドルに上ると算出した。

 これは大変な額だ。2010年にギリシャが欧州連合(EU)とIMFから財政破綻を回避するために受けた2600億ドルの救済策を上回っている。ギリシャが抱える3500億ドルの債務の返済の大きな助けになるだろう。

 当然のことながらドイツは、戦時賠償はとっくの昔に解決した問題で、今になってそれを持ち出すのは、ギリシャの債務危機から注意を逸らそうとする「非常識」な試みだと主張している。

 しかしギリシャは、ドイツが1960年に支払った賠償額は、請求額のうちのわずかにしか過ぎないという。ナチス占領下の残虐行為や破壊行為、それに当時のギリシャ銀行への強引な融資への返済額には、見合わないというのだ。

 法的にギリシャがさらに賠償金を受け取る権利があるかどうかは不明だ。明らかなのはギリシャ政府が、次第に自暴自棄になりつつあり、現在の窮状をドイツのせいにしているということだ。

 両国間の溝は、今年1月にギリシャの総選挙で急進左派連合が勝利したことでさらに拡大した。新政権のツィプラス首相は、多くのギリシャ国民が景気低迷と失業の原因と考えている「緊縮財政の悪循環」を終わらせると公約した。

 ギリシャは今、堅物のドイツのウォルフガング・ショイブレ財務相ら、EU諸国の財政相と金融支援をめぐって交渉中だ。債務返済に必要な資金援助を得るため、どこまで経済改革を実行できるか協議を重ねている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国務長官が近く訪中へ、「歓迎」と中国外務省

ビジネス

IMF、スリランカと債券保有者の協議を支援する用意

ワールド

EU諸国、ミサイル迎撃システムをウクライナに送るべ

ビジネス

中国人民元建て債、3月も海外勢保有拡大 ペースは鈍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 5

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 6

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 7

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 8

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中