最新記事

イスラエル

聖地争奪戦で宗教戦争が激化か

「神殿の丘」奪還を狙うユダヤ教原理主義グループと抵抗するパレスチナ人の戦い

2014年11月14日(金)12時44分
マルク・シュールマン(歴史家)

「岩のドーム」 神殿の丘周辺を警備するイスラエル治安要員 Ammar Awad-Reuters

 イスラエルが実効支配する東エルサレムで先週、ワゴン車が歩道に突っ込み、警官1人が死亡、14人が負傷する事件が起きた。運転していた男はパレスチナ人で、車から降りて金属の棒で警官たちに襲い掛かろうとして射殺された。

 エルサレムでは先月下旬にも車が路面電車の駅に突進し、2人が死亡する事件があったばかりだ。さらに、ユダヤ教原理主義の活動家イェフダ・グリックが走行中の車から銃撃される事件も起きた。

 先週の事件後には、怒ったパレスチナ住民が治安部隊に石や火炎瓶を投げ、ユダヤ教、イスラム教双方の聖地である神殿の丘は騒然とした空気に包まれた。この混乱でイスラエルの治安部隊が、丘に立つアル・アクサ・モスクに突入するという前代未聞の事態も起きた。

 対立の背景には、長期と短期の要因がある。長期の要因は、パレスチナ人が大半を占める東エルサレムとユダヤ人街の西をイスラエル政府が統合できず、東エルサレムの都市インフラが西に比べ極端に貧しいことだ。

 もっとも、いま噴出している不満はおおむね短期の要因によるものだ。最近、ユダヤ教右派の動きが再び活発化していることが問題となっている。ユダヤ人・パレスチナ人双方に責任があるが、ユダヤ人側が火種をつくったことは否めない。

 67年の第3次中東戦争後、ユダヤ教徒は神殿の丘に立ち入れるようになった。だが、イスラエル政府はイスラム教徒に配慮して、神殿の丘でユダヤ教徒が礼拝することは禁じた。ユダヤ教原理主義グループはこの「現状」を不服とし、長年神殿の丘奪還運動を繰り広げてきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日米の宇宙非核決議案にロシアが拒否権、国連安保理

ビジネス

ホンダ、旭化成と電池部材の生産で協業 カナダの新工

ビジネス

米AT&T、携帯電話契約者とフリーキャッシュフロー

ワールド

韓国GDP、第1四半期は前期比+1.3%で予想上回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中