最新記事

中東和平

シリア軍事介入の理想と現実

2012年9月27日(木)16時10分
クリストファー・ディッキー(中東総局長)

 さらにイスラエル政府は、10月末までにイラン攻撃に踏み切る意思をますます強くにじませている。もしそうなれば、アメリカはほぼ確実にもっと広域の紛争に巻き込まれる。前線がいくつもある中東大戦の矢面に立たされる恐れもある。

 しかもシリアの内戦は、リビアのような局地戦ではない。シリアの地形は複雑で都市は人口過密、住民は社会・宗教的に分断されている。反政府勢力は、お世辞にも一枚岩とは言い難い。そもそも反政府勢力とは誰のことなのか。あるいは誰と交渉すればいいのか。

 あるシリアの活動家は本誌にこう語った。「今のシリアには、1つの敵(アサド体制)がいる。この体制が崩壊した後は、全員が敵になるだろう」


軍事介入後も内戦は続く

 軍事介入支持派は、アメリカが手をこまねいていれば、その分だけ内戦後のシリアに対する影響力が弱まると主張する。だが、たとえ米軍が首尾よくシリアに新政権を樹立できたとしても、その政権がアメリカに恩義を感じるとは限らない。

 ほとんどの場合、感謝の念は長続きせず、敵意に転化することも珍しくない。アメリカが後ろ盾になって誕生したアフガニスタンやイラクの政権との関係を見ればよく分かる。

 ブルッキングズ研究所の軍事アナリスト、ケネス・ポラックは02年にイラク侵攻を強く主張した人物だが、今ははるかに慎重な見方をしている。ポラックは最近の論文で、今回のシリアのような内戦の終わり方は2通りしかないと指摘した。

「まず、どちらか一方が勝利するケース。もう1つは強力な武力を持つ第三者が介入して、強引に戦闘をやめさせるケースだ。米政府が一方の勢力を支援するか、シリアへの介入を主導しない限り、現状を大きく変えることはできない」

 ただしポラックが推奨する具体策は、10年前にイラク問題で主張した全面的な軍事行動でも、リビアに用いたような限定的介入でもない。むしろポラックの案は、オバマ政権が既に行っているとみられる政策に近い。

 アメリカは既に一方の勢力への支持を明確にしているのだから、次は反政府勢力への対戦車・対空兵器の供給が効果的だと、ポラックは指摘する。ただし、これらの兵器の出所がアメリカでなければならない理由はない。先週のシリア政府軍機の墜落事件は、既に性能のいい対空兵器が反政府勢力の手に渡っている可能性を示唆している。

 さらに重要なアメリカの役割は、反政府勢力の軍事訓練と組織化かもしれない。米軍の特殊部隊は、もともとそのために設立された組織だ。このやり方なら先日、バラク・オバマ大統領がゴーサインを出した「非致死的」支援の範囲内にとどまるだろう。

「アメリカが内戦後の政治プロセスに影響力を発揮したければ、内戦に勝つ側の軍の整備に全力を注ぐのが賢明なやり方だ」と、ポラックは指摘する。

 ポラックは明言していないが、過去にバルカン半島や中東の紛争に関わった情報当局者が異口同音に口にすることがある。紛争の当事者が殺戮を続けるのに「疲れる」までは、たとえ軍事介入を行っても内戦はなかなか終わらないという現実だ。

 レバノン内戦は終結まで15年かかった。ボスニアでは、身の毛もよだつ惨劇が3年も続いた。これこそ、「平和のための野蛮なる戦い」だ。

[2012年8月29日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中