最新記事

資源

北欧諸国に急接近する中国の皮算用

地球温暖化で北極の資源開発が現実味を帯びるなか、中国は領土保有国の協議団体参加で発言力アップを目指す

2012年9月10日(月)15時26分
ジョイス・マン

資源の宝庫 大量の原油や天然ガスが眠るとされる北極圏への注目は高まる一方 Bob Strong-Reuters

 いま北極に熱い視線が集まっている。地球温暖化で氷の溶解が進み、これまで不可能だった天然資源や新航路の開発ができるようになったためだ。

 同地域の開発や環境保護活動の中心となるのは北極評議会。さまざまな課題を話し合う政府間協議体で、加盟国は北極圏に領土を持つ8カ国(カナダ、アメリカ、ロシア、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、アイスランド、フィンランド)だ。

 この評議会の常任オブザーバー入りを申請しているのが、北極圏に強い関心を寄せる中国。「中国は評議会での発言力アップを狙っている」と、国立シンガポール大学東アジア研究所の陳剛(チェン・カン)研究員は言う。

 米地質調査所(USGS)の推定では、世界の未発見原油埋蔵量の13%、同天然ガス埋蔵量の30%が北極圏に眠っている。海氷が減少すれば夏場の航行可能な期間が延び、航路の大幅な短縮も期待される。

 新航路や資源開発の可能性が出てきたことで、中国はここ5年ほど北極に対する関心を強めていると、ストックホルム国際平和研究所のリンダ・ヤコブソンは指摘する。常任オブザーバーに議決権はないが、討議に参加できるし、加盟国を通じたプロジェクトの提案もできる。オブザーバーには韓国や日本なども名乗りを上げている。

カギを握るノルウェーも前向き姿勢

 中国は加盟国の支持を取り付けるため、投資や開発分野で協力を申し出るなど動きを活発化させている。今年6月には中国の国家主席としては初めて、胡錦濤(フー・チンタオ)がデンマークを公式訪問。4月にも温家宝(ウエン・チアパオ)が中国首相として初めてアイスランドを、28年ぶりにスウェーデンを訪れた。

 北極圏の気候や環境、生態系の調査にも余念がない。84年以来、中国が外国の科学者を招いて行った北極探検は31回。調査基地も3カ所建設した。2隻目の砕氷船には約2億ドルを投じている(14年就航予定)。

 国立シンガポール大学の陳は、中国の申請が認められる確率は五分五分とみている。「アメリカやロシアから支持を取り付けるのは、一筋縄ではいかないだろう。だが、北欧諸国は総じて歓迎ムードだ」

 中国国際問題研究所の陳須隆(チェン・シューロン)も、中国の参加資格に疑問の余地はないと言う。「後は加盟国が同意するかどうかだ」

 アイスランドとデンマークの北極問題担当の高官によれば、両国とも条件を満たす申請国の承認には前向きだ。

 問題はノルウェーの反応だ。10年に中国の民主活動家、劉暁波(リウ・シアオポー)がノーベル平和賞を受賞して以来、両国の外交関係は悪化している(選考委員会はノルウェーにある)。ただし今年6月、ノルウェー外務省の広報担当官は、加盟国と中国の高官レベルの対話はまだないとしつつも、「中国のオブザーバー参加を支持する用意がある」という立場を明らかにした。

 加盟国による議決は来年5月に行われる予定だ。現時点では何の見通しも立っていないが、ストックホルム国際平和研究所のヤコブソンは「すべての申請国が同等に扱われるだろう」と予測する。「すべて承認されるか、否認されるかだ」

From GlobalPost.com

[2012年8月15日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

世界の石油市場、26年は大幅な供給過剰に IEA予

ワールド

米中間選挙、民主党員の方が投票に意欲的=ロイター/

ビジネス

ユーロ圏9月の鉱工業生産、予想下回る伸び 独伊は堅

ビジネス

ECB、地政学リスク過小評価に警鐘 銀行規制緩和に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 9
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 10
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中