最新記事

国連決議

シリアでまた拒否権の中露の悪党度

内戦の犠牲になる民間人を見殺しにしてきた中国とロシア、それぞれの論理

2012年7月20日(金)14時50分
グレゴリー・ファイファー、エミリー・ロディッシュ

悪の同盟? シリア問題で表向きは歩調を合わせるプーチン大統領と習近平国家副主席 Ed Jones-Pool-Reuters

 シリアに対する制裁を警告する国連決議案が、ロシアと中国の拒否権発動により、またも否決された。弾圧を強めるアサド政権への制裁をめぐり、安保理常任理事国の中露が拒否権を行使したのはこれで3度目。さらに言えば、独裁国家への介入に猛反対するのはシリア問題が初めてではない。軍事政権下のビルマ(ミャンマー)や、ロバート・ムガベ大統領が暴挙を振るっていたジンバブエに対する国連決議にも拒否権を発動してきた。

 シリア介入に共に反対票を投じるロシアと中国だが、その思惑は同じところもあれば、微妙に違うところもある。

 両国とも介入は主権の侵害にあたるとの主張は同じだし、それは自国が介入されたくないからでもある。ロシアも中国も、国内での反体制派や少数民族の問題について、いちいち他国から干渉されるのをひどく嫌う。

 とはいえ最近の拒否権発動は、どちらかといえばロシアが旗振り役となって主導している。だから1万5000人以上のシリア人が犠牲になっていることの責任は、中国よりロシアのほうにあるかもしれない。

 ロシアは安保理常任理事国という立場を、欧米に対抗する「強力な武器」とみている。冷戦時代のように、ロシアが世界に影響力を行使できる切り札というわけだ。ロシアの国連大使ビタリー・チュルキンは、拒否権を発動したのは中東での「地政学的な野心」を燃やす欧米諸国を制止するためだと弁明した。

中国と独裁国の経済的つながり

 このようにロシアがシリア不介入の音頭をとっているために、非難を浴びることも多い。だが実は中国のほうが曲者だという見方もできる。中国はわざとロシアに主導権をとらせ、自身は出しゃばらないように立ちまわっている節があるのだ。

 中国も、主に欧米の覇権に対抗するという理由から介入には反対だ。中国はすべての国に主権を守る権利があり、それは他国に侵害されるものではないと考えている。たとえその国で人権侵害が行われていてもだ。

 中国にとって都合のいいことに、こうした姿勢は独裁国家との貿易を続ける格好の口実となる。ビルマやジンバブエがいい例だ。

 シリア問題をめぐっては、中国は実は自国の経済成長を最優先に考えている。シリアの首都ダマスカスは、かつてのシルクロードの要衝であり、中国にとっては今日でも重要な場所だ。欧州議会によれば、中国は10年、シリアにとって第3位の輸出相手国だった。

 こうしてみると、シリア不介入の音頭をとるロシアより中国のほうが「ろくでもない」だろう。ロシアに汚い仕事をさせている卑怯者であり、多くのシリア人の死を横目に、ずうずうしくも自国経済の利益ばかり追求しているからだ。

 だが皮肉にも、昨年のNATO(北大西洋条約機構)によるリビア空爆を間接的に後押ししたのは、中国の経済的野心だった。当初は介入に反対していた中国だが、リビア情勢が混迷を極めるにつれ、現地への投資事業が危機にさらされていると認識。結局、リビア上空に飛行禁止区域を定める国連決議案で棄権票を投じ、介入を黙認した。

 つまり、中国は自国の経済的利益のことしか考えていない。それは不介入の原則を曲げてでも守りたい利益なのだ。そしてシリアに関していえば、中国的「費用対効果」の方程式で計算した場合、今のところは不介入の原則が勝っている。

From GlobalPost.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国の1─4月鉄鋼輸出は過去最高、関税見越した前倒

ワールド

台湾総統、新ローマ教皇プレボスト枢機卿に祝辞 中国

ビジネス

景気一致指数3月は前月比1.3ポイント低下、4カ月

ワールド

中国レアアース輸出、4月は前月比-15.6% 輸出
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 7
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中