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陳光誠のアメリカ行きを喜ぶ中国の本音

盲目の人権活動家、陳光誠の出国は中国当局の思惑どおり

2012年5月7日(月)16時58分
ウィリアム・ドブソン

出国へ 陳は自宅軟禁から脱出後も中国に留まることを希望していたが Reuters

 専制的な政治体制にとって、自分たちに歯向かう活動家を「始末」するのに最も最適な手段とは? 刑務所へぶち込むか、自宅軟禁か、あるいは殺害するか。どれも違う。最も望ましい方法は――国外追放だ。

 手厳しく政府を批判する活動家でさえ、「安全地帯」の国外へ追放された途端に、発する言葉の重みを失ってしまう。第三者は、活動家が安全な場所へ逃れられてよかったと思うだろうが、実際は体制側が耳障りな活動家から逃れたことにもなる。

 中国・山東省での自宅軟禁から「奇跡の脱出」を遂げ、4月26日に北京の米大使館に保護された盲目の人権活動家、陳光誠(チェン・コアンチョン)は、その点をよく分かっていたに違いない。だからこそ、米大使館に保護された当初、中国に留まることを望んでいたのかもしれない。

 しかしその後、陳は一転してアメリカへの出国を希望。中国当局もこれを容認する意向を示した。

 陳には相当な圧力が掛かっているはずだと、アメリカ在住の中国人反体制活動家、楊建利(ヤン・チエンリー)は言う。「陳を中国から出て行かせることが中国当局の狙いだ」

陳が突然、決意を変えた理由

 楊自身も02年から5年間、中国当局に政治犯として囚われていた。しかし刑期の途中、当局から早期釈放を持ちかけられた。「しかし、それにはある条件が付いていた。釈放後、すぐに中国から出ていくというものだ」。楊は釈放を拒否し、当局にこう告げたという。「私を飛行機に乗せても、アメリカに入国はしない」。結局、楊はさらに1年近くを独房で過ごした。

 この先、陳が国際便に乗ることになったとしても、もちろん彼が初めてではない。90年代末には、アメリカと中国を結ぶ唯一の直行便だったノースウエスト航空の北京発デトロイト行きが、「亡命エクスプレス」と揶揄されたものだ。

 陳がアメリカ行きを選んだとしても、誰も彼を責められない。家族の同行を中国当局が認めるというなら、なおさらだ。

 しかし、もし陳が中国に留まれば、彼は中国で最も注目される人物になるだろう。人権擁護団体や各国メディア、そして中国当局が陳の一挙一動に目を光らせるはずだ。陳が国内にいることによって、中国当局は権力の限界を毎日世界にさらすことになる。

 CNNによれば、陳は北京市内で家族との再会を果たした後、一転して出国を希望した理由について、「自分と家族の身の安全のため」と説明したという。陳は、妻が再会前に2日にわたって椅子に鎖でつながれ、当局の尋問を受けたと主張している。

 中国当局はそうまでしてでも、陳を追い出したいのだろう。

 
© 2012 Slate

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