最新記事

宗教

血塗られたキリスト教徒狩りが始まった

2012年4月25日(水)18時20分
アヤーン・ヒルシ・アリ(アメリカン・エンタープライズ研究所特別研究員)

援助金を武器に使うべき

 こうした数々の迫害は、反キリスト教的な暴力行為が深刻な問題となっていることを浮き彫りにする。しかし、この事実はあまり報道されていない。

 この手の暴力は、国際的なイスラム組織が中心となって推進しているわけではない。キリスト教徒に対する「グローバル戦争」は、伝統的な意味での戦争とは違う。これは文化や地域や民族を問わず、イスラム教徒がキリスト教徒に抱く敵意が自然に形を成したものだ。

 イスラム教徒が多数派である国の多くでは、キリスト教徒が「社会の保護を失っている」と、米ハドソン研究所信仰の自由センターのニーナ・シェー所長は本誌に語った。その指摘がとりわけ当てはまるのが、厳格なイスラム主義のサラフィスト派が影響力を拡大している国だ。これらの国々では、イスラム教徒の自警団が免責特権を手にしているかのように振る舞い、政府もそれを止めようとしない。

 大切なことは何か、はっきりさせよう。もちろん、欧米各国の政府は国内の少数派であるイスラム教徒を差別から保護し、彼らが信仰を守りながら自由に暮らせる社会にしなければならない。良心・信教の自由こそ、自由な社会とそうでない社会を分ける要だ。

 その一方で、宗教的不寛容の程度や深刻さについては、バランスの取れた観点から見極める必要がある。漫画や映画で少数派を批判するのと、銃や手榴弾で攻撃するのとは、まったく別の問題だ。

 イスラム教国に暮らす宗教的少数派を助けるため、欧米は何ができるのか。これらの国に対する巨額の援助金をてこにするべきだろう。貿易や投資という武器もある。外交的な圧力をかけつつ、あらゆる市民の良心・信教の自由の擁護を、援助や貿易関係の条件にするべきだ。

 欧米のイスラム恐怖症を叫ぶ言説の罠にはまることなく、イスラム教国にはびこるキリスト教恐怖症の現実を見詰め、断固として反対しよう。寛容はすべての人のためにある。だが不寛容な人々だけは例外だ。

[2012年2月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三菱商事、今期26%減益見込む LNGの価格下落な

ワールド

インド4月自動車販売、大手4社まだら模様 景気減速

ワールド

米、中国・香港からの小口輸入品免税撤廃 混乱懸念も

ワールド

アングル:米とウクライナの資源協定、収益化は10年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中