最新記事

犯罪

臓器売買に走るマイクロクレジットの闇

マイクロクレジットの成功談の陰には、多重債務に苦しみ自分の臓器を売る貧しい農民もいる

2011年12月5日(月)14時33分
セバスチャン・ストランジオ

甘くない現実 貧しい農民や女性でも自立する資金を借りられるマイクロクレジットだが、誰もが成功するわけではない Rafiqur Rahman-Reuters

 バングラデシュ北東部出身の農民メディ・ハッサン(23)の腹部には、痛々しい傷痕が残る。5カ月前、首都ダッカの病院で受けた手術の痕だ。肝臓の6割を提供すれば、30万タカ(約3900ドル)になると言われ、不法臓器ブローカーと契約。だがブローカーは姿をくらまし、ハッサンに残されたのは病院の請求書と傷の痛みだけだった。

 バングラデシュでは闇の臓器売買が盛んに行われている。8月に北西部のジョイプールハットを拠点とする臓器ブローカー組織が摘発されると、この問題がメディアで大きく報じられた。

 彼らが臓器提供を持ち掛けていたのは、マイクロクレジットの返済に追われる貧しい農民。世界から注目を集める融資制度の発祥の地で、こうした違法取引が横行するとは皮肉な話だ。

 警察の調べでは、組織が摘発された時点でジョイプールハットの住民43人が臓器を売り、10人以上が手術待ちの状態だった。事件を追った地元記者によると、売り手の大半は融資返済のために新たな借金をする「多重債務にあえぐ人たち」だ。

病院ぐるみの組織犯罪

 25歳のセリナ・アクテルもその1人。農園経営で損失を出して借金を重ね、腎臓を売る決心をした。夫をはじめ身内の3人も腎臓を売ったという。借金取りの嫌がらせや罵倒に耐え切れず、臓器を売った村人もいる。

 ブローカー組織を率いるアブダス・サタル自身、腎臓を売った経験がある。サタルは仲間と共にジョイプールハットで売り手を募り、ダッカの病院で人工透析患者らに話を持ち掛けて、多額の上前をはねていたらしい。

 この国の法律では、臓器提供者は患者の家族に限られる。そのためブローカーと病院側は、臓器の売り手を患者の親族に見せ掛ける証明書を偽造する。

 バングラデシュの臓器売買を調査した専門家によれば、臓器を売る人は国全体で年間250〜300人。提供者と患者に血縁関係があるかをDNA鑑定で確認すべきだ、との声もある。移植用の臓器を確保するため、家族以外でも提供できる制度や、欧米諸国のように死後に臓器提供できる仕組みも必要とされる。

 臓器を売った人々の健康状態については十分な調査が進んでいない。一般には術後の痛み、周期的な発熱があるほか、心理的な苦痛が最も長く続くようだ。「神に与えられたものを売った自分は人間以下の存在だ」と思い込む人もいるという。

GlobalPost.com特約

[2011年11月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米農家の苦境に懸念高まる、共和党議員や元当局者らが

ビジネス

ペプシコ、25年第4四半期売上高は予想上回る 主力

ビジネス

イランで暗号資産取引が活発化、当局の制裁逃れ巡り米

ビジネス

ホワイトハウスの会合、暗号資産法案の行き詰まり打開
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 3
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 4
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 5
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 6
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 7
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 8
    最長45日も潜伏か...世界が警戒する「ニパウイルス」…
  • 9
    ICE射殺事件で見えたトランプ政権の「ほころび」――ア…
  • 10
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 7
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 8
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 9
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 10
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中