最新記事

異説

温暖化で緑化が進む?常識を覆す楽観論が登場

気温が上昇すると世界各地で降雨量が増えて植物が繁殖すると、ドイツ人研究者が指摘

2011年10月11日(火)14時40分
シュテファン・タイル(ベルリン支局長)

再び肥沃に? 地球温暖化は砂漠に恩恵をもたらすかもしれない Juan Medina-Reuters

 数千年前、現在スーダンがある辺りのサハラ砂漠には大河が流れていた。魚やワニ、カバが生息しており、農業を営む人々の暮らしを支えていた。

 やがてアフリカ北部は乾燥し、草原はサハラ砂漠と化してしまった。この大河も1年の大半は干上がっている。原因は気候変動だ。

 ドイツのケルン大学の地質学者シュテファン・クレペリンが行った6000年前のデータなどに基づく研究によれば、気温が下がるにつれてサハラ砂漠は拡大していった。世界的な寒冷化に伴い、大気中の飽和水蒸気量が減少して降雨量が減り、乾燥地域が増えたのだ。

 だが今、逆転現象が起きている。気温が上昇するにつれて、サハラ砂漠などの乾燥地域の周縁部で緑化が進行しているのだ。

 以前は砂漠だった場所に草や低木、アカシアの木が生えていると、クレペリンは言う。こうした変化は、30年に及ぶ現地調査で彼が撮り続けてきた写真や、衛星画像からも明らかだ。

乾燥地域がより肥沃に

 気候変動が今のペースで進むと、アマゾンの熱帯雨林は消失し、降雨量が減り、大規模な干ばつが起きるかもしれない──こうした悲観論に、クレペリンの地質学的データは疑問を投げ掛ける。

 国連主催のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「悲観的」な報告は、アフリカの広範な地域で降雨量が減少し、ソマリアで起きているような飢饉が珍しいものではなくなるかもしれないと予測している。

 こうしたシナリオに批判的な目を向ける科学者はクレペリンだけではない。彼らの膨大なデータが示しているのは、気温の上昇によって世界の幅広い地域で降雨量が増え、植物がより繁殖し、何世紀も荒れ果てていた地域に植物が生えてくるという可能性だ。

 極寒の地グリーンランドでも再び農業が行われるようになってきた。そもそもグリーンランドという名前は、「中世の温暖期」に最初にこの島に上陸した人物が、ここでは農業が可能だとして名付けたものだとされる。
アルプスでは樹木の限界高度が徐々に上昇している、という報告もある。

 先頃、英科学誌ネイチャーに掲載された米農務省の研究によると、IPCCが予測した気温上昇と二酸化炭素量から考えると、北米の大草原では植物の成長が促進される見込みだ。世界の陸地の3分の1を占める半乾燥地域の草原は、より肥沃になっていく可能性がある。

 熱帯雨林の化石を研究しているスミソニアン協会のカルロス・ハマリジョも、古代では温暖化に伴って植物の成長が促され、その結果、種の多様化が進んだと考えている。

 サハラ砂漠南縁のサヘル・サバンナ地帯はしばしば飢饉に見舞われるという問題を抱えている。だがこれは気候というよりむしろ、50年代以降に人口が約3倍に増え、草を根ごと食べ尽くすヤギがたくさん飼われるようになったことに関係しているようだ。

 クレペリンによると、ヤギが入ってこないようにフェンスを張り巡らせた地域には植物がまた生え始め、かつてないほど緑化が進みつつあるという。サヘル地域は自然に砂漠化したのではない。「自然」を保護すれば逆の現象が起きるのだ。

 クレペリンは、温暖化に関する主流派の説に反する楽観的な考えを吹聴しているとして、一部の科学者から非難されているとこぼす。「彼らはコンピューターを使った予測算出に夢中で、現地で実際に起きていることには無関心のようだ」

 しかしクレペリンら「楽観派」の説が正しければ、温暖化が進んでも最悪の状況は避けられるかもしれない。

[2011年9月14日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中