最新記事

社会革命

イギリス、今さら暴動のなぜ

Why Riot Now?

若年層の失業も貧困も長年存在していたのに民衆の不満がこの期に及んで爆発した本当の理由とは

2011年9月16日(金)14時44分
サスキア・サッセン(米コロンビア大学社会学教授)

「街頭闘争」は現代の歴史の一部だ。アラブ世界の民衆が反体制運動に立ち上がり、中国の都市ではほぼ日常的に抗議活動が繰り広げられ、中南米の貧困層は鍋やフライパンを手にデモをしている。これらはいずれも社会的・政治的主張を訴えるための手段だ。

 最近ではイスラエルの都市テルアビブでも、20万人規模の前代未聞のデモが行われた。彼らが求めているのは政権打倒ではなく、住宅や仕事。市の中心部には活動家が集うテント村が出現したが、その「住人」の大半が困窮する中流層というのも前例のない事態だ。

 スペインの首都マドリードでは、雇用や社会福祉の現状に怒る市民が平和的なデモを続けている。その一部は現在、EU本部があるベルギーのブリュッセルへ向けて1300キロの道のりをデモ行進中だ。こうした運動は指導層に自分たちの声を届けることを目指しており、単なる抗議が目的ではない。

 先頃イギリスで勃発した暴動も社会的主張の一形態だ。暴動の中心となったのは、都市部で最も不利な立場にある住民だった。彼らにとって集団での暴力行為は、指導層に耳を傾けさせるための数少ない手段の1つだ。

 今回の暴動は多くの点で、60〜70年代にアメリカの各都市のスラム地区で起きた暴動と似ている。スラムの住民が短期間に起こした激しい暴力の嵐は地区の中だけで吹き荒れ、最大の犠牲者となったのはスラム地区そのものだった。暴動が指導層の注意を引くこともなかった。指導層にとってスラムの住民は遠い存在であり、その政治的主張は理解不能だった。

絡み合った3つの要因

 だが都市を襲う暴力は指導層にインパクトを与える。この手の暴力行為はこれまで、特に欧米社会の大都市に住む貧しい住民にとって最後の手段だった。フランスの犯罪学者ソフィー・ボディジャンドロが、05年と07年にパリ郊外で起きた暴動の研究で指摘するように、それは彼らなりの「政治的演説」だ。

 暴動とは、特定の要因が絡み合い、頂点に達した民衆の不満が街頭での実力行使へと変容したものだ。イギリスでは、3つの大きな要因が重なった結果、ロンドンやバーミンガム、リバプール、ブリストルで暴動が起きた。

 今回の暴動の第1の要因は、街頭が正式な政治的手段を持たない者のための抗議の場だと民衆が認識したことにある。05年と07年に移民などが多く住むパリ郊外の低所得層地域で起きた事件や、60年代と70年代半ばにアメリカで発生した暴動の背景にもこうした意識があった。

 この手の街頭行動の特徴は警察との衝突や、暴徒が暮らす貧困地区での放火や財産の破壊にある。80年代末、共産党政権の崩壊につながった東欧各国での平和的デモとは異質のものだ。エジプトのムバラク政権を倒した抗議活動とも異なる。あのとき、首都カイロの民衆は当局側に対しても、さまざまな民族的・宗教的背景を持つ人々が集う反体制派内部においても、平和的手段を貫くことを目指していた。

 第2の要因は、都市部の貧困層が最も打撃を受ける経済的損失があったことだ。失業で彼らの収入は途絶え、各種の社会保障が打ち切られ、政府の支援による貧困地区での社会・文化活動も中止されている。
暴動の原因としてはるかに大きな意味を持つのは、警官による黒人男性の射殺事件ではなく、こうした事実のほうだろう。実際、男性の遺族や地元住民は平和的な抗議活動をするつもりでいた。

ニュース速報

ビジネス

英格付け、国民投票受け見通しを「ネガティブ」に=ム

ビジネス

政府・日銀、英EU離脱で幹部会合 財務官「新たな均

ビジネス

ロッテ株主総会、現経営陣刷新案を否決 長男側は臨時

ワールド

アングル:北朝鮮ミサイル開発にみる金正恩氏の「鉄の

MAGAZINE

特集:英国はどこへ行く?

2016-6・28号(6/21発売)

EU離脱の是非を問うイギリス国民投票はいかに──。統合の理念が揺らぐ欧州と英国を待つ未来

人気ランキング (ジャンル別)

  • 最新記事
  • コラム
  • ニュース速報
  1. 1

    ISISが3500人のNY「市民殺害リスト」をアプリで公開

    無差別の市民を選び出し、身近な標的を殺せと支持…

  2. 2

    もし第3次世界大戦が起こったら

  3. 3

    英キャメロン首相「EU離脱派6つのウソ」

  4. 4

    ハーバードが絶賛する「日本」を私たちはまだ知らない

  5. 5

    未婚男性の「不幸」感が突出して高い日本社会

  6. 6

    Windows10の自動更新プログラム、アフリカのNGOを危険にさらす

  7. 7

    搾取されるK‐POPのアイドルたち

  8. 8

    「国家崩壊」寸前、ベネズエラ国民を苦しめる社会主義の失敗

  9. 9

    あらゆる抗生物質が効かない「スーパー耐性菌」、アメリカで初の感染が見つかる

    ペンシルバニア州に住む49歳の女性から発見…

  10. 10

    コンビニATM14億円不正引き出し、管理甘い日本が狙われる

    アフリカ諸国、東欧、中東などでは不正分析ソフト…

  1. 1

    レイプ写真を綿々とシェアするデジタル・ネイティブ世代の闇

    ここ最近、読んでいるだけで、腹の底から怒りと…

  2. 2

    英国のEU離脱問題、ハッピーエンドは幻か

    欧州連合(EU)にさらに権限を委譲すべきだと答え…

  3. 3

    伊勢志摩サミットの「配偶者プログラム」はとにかく最悪

    <日本でサミットなどの国際会議が開催されるたび…

  4. 4

    嫌韓デモの現場で見た日本の底力

    今週のコラムニスト:レジス・アルノー 〔7月…

  5. 5

    間違い電話でわかった借金大国の悲しい現実

    ニューヨークに住み始めた僕は、まず携帯電話を手…

  6. 6

    移民問題が「タブー」でなくなったわけ

    ここ数年、僕たちイギリスの国民は、一部の政治…

  7. 7

    美学はどこへ行った?(1):思想・哲学・理論

    <現代アートの国際展は、思想や哲学にインスパイアさ…

  8. 8

    パックンが斬る、トランプ現象の行方【後編、パックン亡命のシナリオ】

    <【前編】はこちら> トランプ人気は否めない。…

  9. 9

    中古ショップで見える「貧困」の真実

    時々僕は、自分が周りの人々とは違った経済的「…

  10. 10

    グラフでわかる、当面「円高」が避けられないただ1つの理由

    〔ここに注目〕物価 為替市場において円高が…

  1. 1

    英国のEU離脱派と残留派、なお拮抗=最新の世論調査

    11日に公表された世論調査によると、英国の欧…

  2. 2

    メルセデス・ベンツの長距離EV、10月に発表=ダイムラー

    ドイツの自動車大手ダイムラーは、メルセデス・…

  3. 3

    米フロリダ州の乱射で50人死亡、容疑者は警備最大手に勤務

    米フロリダ州オーランドの、同性愛者が集まるナ…

  4. 4

    米国株式市場は続落、原油安と世界経済懸念が重し

    米国株式市場は2日続落で取引を終えた。原油が…

  5. 5

    英国民投票、「EU離脱」選択で何が起こるか

    欧州連合(EU)は6月23日の英国民投票を控…

  6. 6

    ECBのマイナス金利、銀行に恩恵=コンスタンシオ副総裁

    欧州中央銀行(ECB)のコンスタンシオ副総裁…

  7. 7

    焦点:タカタ再建、「ラザード」効果で進展か 車各社との調整に期待

    欠陥エアバッグ部品の大量リコール(回収・無償…

  8. 8

    インタビュー:世界的な低金利、エンダウメント型投資に勝機=UBSウェルス

    UBSウェルス・マネジメントのグローバルCI…

  9. 9

    NY市場サマリー(10日)

    <為替> 原油安や銀行株主導で世界的に株安が…

  10. 10

    クリントン氏優位保つ、トランプ氏と支持率11ポイント差=調査

    ロイター/イプソスが実施した最新の世論調査に…

定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
リクルート
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

0歳からの教育 育児編

絶賛発売中!

コラム

パックン(パトリック・ハーラン)

モハメド・アリ、その「第三の顔」を語ろう

STORIES ARCHIVE

  • 2016年6月
  • 2016年5月
  • 2016年4月
  • 2016年3月
  • 2016年2月
  • 2016年1月