最新記事

放射能

福島原発は廃炉にできない

2011年8月18日(木)13時08分
千葉香代子(本誌記者)

建設より厄介な廃棄作業

 福島第一は破壊の程度がひどいため、事故処理にはほぼ永遠と言っていい時間がかかるだろうと、京都大学原子炉実験所の小出裕章助教は言う。チェルノブイリ原発の石棺のように巨大な構造物で建屋を覆った上、作業員の被曝を避け、放射性物質が外に漏れ出さないよう監視しながらの作業が必要だ。「いま生きている日本人は誰一人、その終わりを見ることはないのではないか」と、小出は言う。

 福島第一は廃炉にもできず、放射能を閉じ込めた「悲劇のモニュメント」として半永久的に残る──その可能性すら、政府や東電はまだ認めていない。

 そもそも廃炉は原発から使用済み燃料を取り出し、構造物を解体撤去して更地に戻す廃棄作業だ。原発を造るより長い時間と労力と巨額の費用が掛かる。

 6月に国民投票で脱原発を決めたイタリアでは、90年に停止が決まった福島と同じ型のカオルソ原発など4基の廃炉に取り組んでいる。作業は2020年頃に完了する予定で、その費用は約7000億円に上る。福島の場合、コストはその何倍にも膨らむはずだ。

 廃炉は、これを請け負う原子力業界にとってはビジネスチャンスだ。世界的な脱原発の流れも受けて、今後大きな市場になるとみられている。「だが、福島だけは誰も手を出したがらないだろう」と、コンサルティング会社ブーズ・アンド・カンパニーでエネルギー問題を担当するパウル・デュールローは言う。「爆発した原発の廃炉が技術的に可能なのかどうかも分からない」

 廃炉で最も重要なのは、核燃料を取り出すことと、高濃度から低濃度まで放射能に汚染された廃棄物を処理することだ。

 原発が冷温停止した後、放射線レベルが下がるのを何年も待ち、低濃度のものから徐々に解体して最後に原子炉を撤去する。その際、染み付いた放射性物質を分離・分類し、不純物を取り除いた上、種類別にまとめて密閉容器に閉じ込めなければならない。放射能を周囲に広げないための、原子レベルの超ハイテク技術だ。

 だが爆発した原発の廃炉は、これまで誰も経験がない。86年に爆発したチェルノブイリは廃炉にできず、今も放射能レベルが下がるのを待ち続けている。設置から40年を経てコンクリートが浸食され、石棺はもはやボロボロの状態だ。

日本版チェルノブイリに

 普通に運転停止した原発であれば燃料棒を束ねた燃料集合体を取り出せば済むし、周囲の汚染も大したことはないと、かつて東芝で原子炉格納容器の設計をしていた後藤政志は言う。

 だが福島第一の場合は、大量の放射性物質が格納容器の外に漏れ出て、建屋内部が放射能まみれになった。「もはや普通の廃炉という概念は当てはまらない」と、後藤は言う。燃料集合体は溶けてチーズのようになり、どこに流れ出したかも分からない。周囲は壁まで放射能が染み付いている。この状態からどうやって放射性物質を取り出すのか、もはや誰にも分からない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中貿易協議で大きな進展とベセント長官、12日に詳

ワールド

プーチン氏、15日にトルコで直接協議提案 ゼレンス

ビジネス

ECBは利下げ停止すべきとシュナーベル氏、インフレ

ビジネス

FRB、関税の影響が明確になるまで利下げにコミット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王子との微笑ましい瞬間が拡散
  • 3
    「隠れ糖分」による「うつ」に要注意...男性が女性よりも気を付けなくてはならない理由とは?
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    ロシア艦船用レーダーシステム「ザスロン」に、ウク…
  • 8
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 9
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 10
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 10
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中