最新記事

日米安保

日本は「軍事パートナー」失格だ

アメリカは自国の安全保障強化に貢献する同盟国と負担ばかり強いる国を見極めるべきだ

2011年3月3日(木)17時59分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)

去る選択肢も 「近隣に脅威を抱えるのは日本であってアメリカではない」(米海兵隊との合同演習を行う陸上自衛隊) Mike Blake-Reuters

 深刻化する安全保障問題をかかえた大国が、今後もアメリカの庇護を受け続けられるのか疑問に感じた場合、どんな対策を取るだろうか。
 
 アメリカに「タダ乗り」するのを止めて、自国による安全保障体制を強化するだろう。

 典型的な例が日本だ。ニューヨーク・タイムズ紙が3月1日に報じたように、日本は中国の台頭と北朝鮮の脅威、アメリカがアジアへの関与を弱める可能性に対応するために手を打っている。といっても、中国と手を組んだり、中立を保つ道を選んだわけではない。日本は自らの防衛力を高め、アメリカとの安全保障上の絆を再確認する道を進んでいる。同紙によれば、日本の目標はアメリカの「完全な軍事パートナー」になることだ。

 この例から引き出せる教訓が2つある。1つ目は、バランスを取ろうとする傾向が世界の大国に広がっている現状を利用して、アメリカが自国の負担を軽減できるということ。要するに、日本のような豊かな同盟国が埋め合わせをしてくれることを当てにして、アメリカは防衛費の一部を削減できるわけだ。別の言い方をすれば、相手国の安全保障に興味がないふりすることで、過去数十年間よりも大きな負担を同盟国に押し付けることができる。

 それが可能な理由の一つは、多くの同盟国が近隣に潜在的な脅威をかかえているのに対して、アメリカは地理的に安全性が高いことが挙げられる。賢明な戦略家なら、この地の利を生かさないはずがない。

 もしアメリカが世界の安全保障を一手に引き受けることにこだわるのなら、諸外国がアメリカにタダ乗りを続けても文句は言えない。

日本がアメリカ以外の国に接近?

 もっとも、すべての責任を他国に委ねられるわけではないという点も、2つ目の教訓として浮かび上がる。アメリカがアジアから完全に撤退したり、軍備を削減しすぎたら、いずれアメリカ以外の国に戦略的に接近する国が出てくるだろう。

 それでも、最近のアメリカがGDP(国内総生産)の5%近くを安全保障に費やしているのに対して、日本の防衛費がGDPの1%以下という現状を考えれば、同盟国がアメリカ以外の国と組む可能性を真剣に考える状態には程遠いと思う。

 国家が他国と同盟関係を結ぶのは、自国の安全保障にプラスだからこそ、という点を忘れてはいけない。世界各地に同盟国をもつことでアメリカが防衛義務を負う地域が増えるだけなら、戦略を見直すほうがいい。そして、アメリカの安全保障強化に貢献する国はどこか、アメリカに何の利益ももたらさず、負担ばかりを強いる国はどこかを見極めるべきだ。


Reprinted with permission from Stephen M. Walt's blog, 3/3/2011. © 2011 by The Washington Post Company.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国外相、GCCにFTA早期妥結を要請 保護主義に

ワールド

バーツ高は行き過ぎ、経済に悪影響 中銀と協議=タイ

ビジネス

午後3時のドルは155円前半、日銀会合前に円買い戻

ビジネス

中国万科、18日に再び債権者会合 社債償還延期拒否
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中