最新記事

軍事

オバマは「イラン空爆」に備えよ

たとえアメリカがやらなくても、どこかの国がやるかもしれない

2010年2月25日(木)16時24分
アン・アップルボム

前歴 イスラエルには周辺国の核施設を空爆で破壊した過去がある(イスラエル空軍のF16戦闘機) Gil Cohen Magen-Reuters

 ちょっとまじめに考えてみよう。バラク・オバマ米大統領はイランを空爆するつもりはない。それは彼がリベラルだからでも、反戦活動家だからでもない。支持率アップのための武力行使という使い古された手(サラ・ペイリン前アラスカ州知事お勧めの戦術だ)を使う度胸がないからでもない。

 オバマがイランの核施設を空爆しないのは、ジョージ・W・ブッシュ前大統領がやらなかったのとまったく同じ理由からだ。まず、核施設の場所が正確に分からない。空爆したところでイランの核開発計画を長期にわたって止められるかどうかも分からない。

 それにイランがちらつかせている報復(イラクやアフガニスタン、パレスチナ、レバノン国内のイランと親しい勢力による、イスラエル軍やアメリカ軍に対する攻撃)に今の時点で対応を迫られるのも、結果として原油価格が上がることもいただけない。

 すでに2つの戦線で軍を展開させているアメリカの大統領が、わざわざ新しい戦争を始めようとするわけがない。そして、そんなことで支持率が一瞬でも上がると期待するはずもない。

イスラエルも効果を疑問視するが

 だがオバマがやらないからといって、他の誰かがやらないという保証はない。ある日、夜中の2時にオバマの電話が鳴り、イスラエルがイランの核施設を攻撃したと伝えられるかもしれない。そうなったら、次には何が起きるだろう。

 これは避けられないシナリオではない。一部の人々が考えるようにイスラエルが空爆に積極的だとすれば、すでにやっているはずだ。イスラエルは81年にはイラクの核施設を破壊するために8機の戦闘機を送り込んだし、07年にはシリアの核関連とみられる施設を空爆している。

 どちらも今では、空爆のお手本のような作戦だったと考えられている。短時間のうちに成功させ、大きな報復も招かなかった。おまけに国際社会からは事実上、正当な自衛措置として受け入れられた。

 だが81年の空爆部隊を率いたジエブ・ラズが認めるとおり、今回は状況が異なる。「8機だけで空爆できるような単一の標的がない」と彼はエコノミスト誌に語っている。

 イスラエルもイラン空爆の効果については疑問をもっている。だからこそ、イスラエルはイランの核開発を遅らせる目的で、秘密の破壊活動や外交交渉(イランとは正式な国交がないにもかかわらず)に力を入れているのだ。

 この先20年ほどは核技術で自分たちが優位であり続けるだろうと認識しつつ、イランの核開発を思いとどまらせる方策も探っている。イラン空爆は効果よりも副作用のほうが大きいというのが、今の時点でのイスラエルの結論だ。

望まぬ戦争に巻き込まれる恐れも

 だがいつか、イスラエルの損得勘定も変わるかもしれない。多くのイスラエル人はイランの核開発計画を、自分たちの命に関わる重要な問題だと捉えている。

 イランのマフムード・アハマディネジャド大統領はイスラエルの生存権を否定したり、ホロコーストを否定する歴史家を公の場で支持したりといった挑発を繰り返している。イスラエル人を疑心暗鬼にさせるには「大量殺害の標的にするかもしれない」とほのめかすだけで十分なのだ。

 もし空爆が現実のものとなったら、夜中2時の電話に続いて起きるのはイランからの報復だろう。標的になるのは本国にいるアメリカ人かもしれないし、イラクの在留米軍かもしれないし、海上のアメリカの船かもしれない。

 そんな事態を望んでいるわけではないが、備えは必要だと私は考える。ペイリンとは違い、私は映画『ウワサの真相 ワグ・ザ・ドッグ』の主人公が大統領のスキャンダルを隠蔽するために戦争をでっちあげたように、オバマが失地挽回を狙ってイラン空爆を行なうとは思わない。

 だがオバマ政権に対しては、自ら望んだわけではないがやらざるを得ない戦争に対する軍事的、心理的な備えを怠らないでもらいたいと思う。これは映画ではなく現実なのだから。

*Slate特約
http://www.slate.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中