最新記事

米政治

米大統領選を決する4%票の正体

916,643 Votes For Sale

中南米系の若い女性に1人2000ドル渡したほうが効果的?

2012年8月28日(火)15時10分
ポール・ベガラ(政治コンサルタント)

 アメリカ大統領選は直接選挙ではない。建国の父たちがへまをしたおかげで、州ごとに選挙人を選び、その選挙人が大統領を選ぶ間接選挙がいまだに採用されている。原則として州ごとの総取り制で、その州で1票でも多くの票を得た候補が、州ごとに割り当てられた選挙人という「票」をすべてもらえる。

 選挙人の数が多いカリフォルニア州やニューヨーク州、イリノイ州(どの州も現職バラク・オバマを支持することが確実)、テキサス州(圧倒的に共和党が強い)では結果は見えたも同然。つまりアメリカ国民のほぼ3分の1に当たる、9540万人分の票の行方はもう決まっている。

 それだけではない。アラスカ州は共和党のミット・ロムニー候補が圧倒的に優勢。ハワイ州はオバマ応援団だし、ユタ州はロムニー王国で、マサチューセッツ州はオバマで結束している。実は44もの州で11月の大統領選の帰趨は決定済みと言え、最終結果は残りの6州に懸かっている。東海岸のバージニア州とフロリダ州、中西部のオハイオ州とアイオワ州、南西部のニューメキシコ州とコロラド州だ。

 ただしこの6州ではオバマとロムニーの支持率はほぼ48%ずつなので、勝敗に影響を与えるのは有権者の4%である91万6643人。カリフォルニア州サンノゼ市の人口と同じくらいだ。

 そうなると、問題は浮動票層の91万6643人にいかに訴えるかだ。政党や両候補の選挙対策本部、応援団体がこのほんのわずかな人々の心をつかむために費やす金額は計20億ドル。1票当たり2181.87ドルの計算だ。

 世論調査の専門家によれば彼らの大半が女性で、しかも比較的若い。年長の有権者ほど自分のやり方や考えにこだわるが、若者は何事についても説得を受け入れやすい。浮動票層の多くは高卒で、かなりの数のヒスパニック(中南米系)が含まれる。


失言なんて気にしない

 だから重視すべきなのは、自分で生計を立て、子供を育てているために大学に進む余裕がない中南米系の若い女性だ。ロムニーから彼女へのメッセージはこうだ。「オバマが君の生活をめちゃくちゃにした。彼は何億ドルも浪費したが、君の暮らしは悪くなった。私は実業家だから、この状況を正すことができる」。まあ、ここまではいいとしよう。

 だがオバマを個人攻撃するだけで、将来に向けた明確な経済政策を打ち出さなければ、ロムニーの選挙運動は的外れな方向へそれていくだろう。

 一方のオバマは、高卒の働く母親にこう訴える。「めちゃくちゃな状況は前政権から引き継いだものだ。われわれは自動車産業を救い、公正賃金法を成立させ、430万人分の雇用を創出するなど事態を好転させている。だがロムニーが選ばれたら、富裕層向けの減税を行い、教育やメディケア(高齢者医療保険制度)など中流層を支える制度を骨抜きにするような、かつての失政に戻るだろう」

 オバマがやるべきでないのは、業績を誇示すること。生活が厳しい時代には、「すごい業績を挙げた」などという話は聞きたくないものだ。浮動票層が知りたいのは、自分のために何をしてくれるか。ここでも、将来を見据えた発言が重要だ。

 浮動票層がすぐに動きだすことは期待しないほうがいい。彼女たちは政治好きな人ほど失言や世論調査を気にしない。党大会の様子や討論会の一部をちらりと見て、投票日の11月6日になったら、どちらが自分のような中流層のために経済を立て直してくれるかと考えるだろう。

 結局彼女たちは候補者がテレビCMを中止して、2181.87ドルを分け与えてくれるほうがうれしいのではないか。

[2012年7月25日号掲載]

ニュース速報

ワールド

ドイツ社会民主党の支持率、メルケル氏与党連合を上回

ビジネス

米FRB、3月会合で利上げ真剣に検討する可能性=ア

ビジネス

焦点:ゴーン氏、世界3強入りに照準 3社連合の効果

ビジネス

税制改革、8月休会前の議会承認望ましい=米財務長官

MAGAZINE

特集:北朝鮮 暗殺の地政学

2017-2・28号(2/21発売)

異国の地マレーシアで殺害された金正男──。その死の背景には北朝鮮をめぐる地政学の変化があった

人気ランキング

  • 1

    トランプはゴルフしすぎ、すでに税金11億円以上浪費

  • 2

    人類共通の目標に大きな一歩、NASAが地球と似た惑星を7つ発見

  • 3

    オルト・ライト(オルタナ右翼)の寵児、「小児性愛OK」発言で転落

  • 4

    金正男暗殺で、また注目される「女性工作員」

  • 5

    トランプのメキシコいじめで不法移民はかえって増える

  • 6

    日本でコストコが成功し、カルフールが失敗した理由

  • 7

    児童相談所=悪なのか? 知られざる一時保護所の実態

  • 8

    金正男氏を「暗殺者に売った」のは誰か

  • 9

    金正男暗殺、北朝鮮大使館2等書記官も容疑者 マレー…

  • 10

    日本が低迷する「報道の自由度ランキング」への違和感

  • 1

    金正男氏を死に追いやった韓国誌「暴露スクープ」の中身

  • 2

    日本でコストコが成功し、カルフールが失敗した理由

  • 3

    金正男殺害を中国はどう受け止めたか――中国政府関係者を直撃取材

  • 4

    金正男の暗殺事件で北朝鮮の男を逮捕 謎の男の正体…

  • 5

    金正男暗殺事件、マレーシア首相が北朝鮮を暗に批判…

  • 6

    「ペンス大統領」の誕生まであと199日?

  • 7

    海上自衛隊、18年度から4年間で新型護衛艦8隻建造へ

  • 8

    一般市民まで脅し合う、不信に満ちた中国の脅迫社会

  • 9

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 10

    金正男氏を「暗殺者に売った」のは誰か

  • 1

    金正男氏を死に追いやった韓国誌「暴露スクープ」の中身

  • 2

    日本でコストコが成功し、カルフールが失敗した理由

  • 3

    金正男殺害を中国はどう受け止めたか――中国政府関係者を直撃取材

  • 4

    トランプを追い出す4つの選択肢──弾劾や軍事クーデタ…

  • 5

    日本でもAmazon Echo年内発売?既に業界は戦々恐々

  • 6

    東芝が事実上の解体へ、なぜこうなったのか?

  • 7

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 8

    マティス国防長官日韓訪問に中国衝撃!――「狂犬」の…

  • 9

    金正男クアラルンプール暗殺 北朝鮮は5年前から機…

  • 10

    トランプ、入国制限に反対の司法長官代行を1時間後…

グローバル人材を目指す

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本再発見 「日本の新しいモノづくり」
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 臨時増刊

世界がわかる国際情勢入門

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2017年2月
  • 2017年1月
  • 2016年12月
  • 2016年11月
  • 2016年10月
  • 2016年9月