最新記事

米環境

エコ派を怒らせたオバマの心変わり

自然エネルギーよりも原発推進に舵を切ったオバマにエコ推進派は怒り心頭だ

2010年2月5日(金)17時22分
ジェニーン・インターランディ

ポイ捨て? オバマは共和党の機嫌取りのためにエコ路線を捨てたのか Larry Downing-Reuters

 オバマ米大統領はエネルギー政策の方向転換を図っている――こう言っても差し支えないだろう。1月27日に行われた一般教書演説では沖合いでの資源採掘に触れ、2月1日の予算教書演説では原子力発電向けの融資保証を3倍に増やすことを明らかにした。2月3日にはトウモロコシを原料とするバイオ燃料の増産や二酸化炭素(CO2)の貯留計画を奨励すると発表し、農家や石炭業界を喜ばせた。

 だがオバマはこれまでのところ、風力、太陽光などの自然エネルギーやスマートグリッド(IT技術を利用して効率的な電力供給を行う送電網)、エネルギー効率についてほとんど何も語っていない。今後はこうした分野が中心的な役割を果たすべきと考える環境保護派は、オバマの態度に落胆しているだろう。

 風力や太陽光による発電は供給が不安定だということを考えると、こうした分野が実用的でないというのも確かにうなずける。だが環境保護派は、クリーンな石炭技術や原子力、バイオ燃料にも、それぞれ問題があると反論するだろう。

 例えばオバマは、バイオ燃料の生産を現在の年間120億ガロンから22年までに360億ガロンに増大させるとぶち上げた。だがアメリカにはこれほど大量のトウモロコシを栽培できる敷地面積はない。トウモロコシの代替品として、スイッチグラス(稲科の草)や廃材などから取れるセルロースを燃料に変える必要があるが、その生産行程で相当量のCO2を排出する。

 ではCO2を地下に貯留する案はどうか。エネルギー省は16年までに5〜10カ所の実証施設の建設を計画しているが、貯留計画を支持する人たちでさえ、実用化には技術が程遠いことを認めている。原子力発電に関しては、新たな発電所を作る前に100カ所以上の既存の原子力発電所に山積する廃棄物の処理をどうするかを考えなければならない。

キャップ・アンド・トレード方式は棚上げ?

 温室効果ガスの排出枠を設けるキャップ・アンド・トレード方式を切り離して考えるという発言も、オバマにとっては政治的に必要だったのかもしれない。民主党支持者の一部と共和党支持者のほとんどは、CO2の売買だとしてこの方式を嫌っている。

 だが、キャップ・アンド・トレードを除外することは、後々両党にとって痛手になるだろう。排出量の上限設定や炭素税が導入されないかぎり、エネルギー関連企業がCO2の貯留などに力を入れることはないだろう。これらの措置にかかるコストが政府の補助金を上回ったらなおさらだ。

 最終的には、米環境保護局(EPA)が議会の無策ぶりに業を煮やして、(例えば大気浄化法の下で)より厳格で強制的な独自の規制を課すかもしれない。

 気候変動対策法案の上院での審議が難航するなか、オバマが共和党好みの方針を掲げることで法案への支持を取り付けようとしていることは明らかだ。しかし、この目論見がうまくいくかどうかはまだ分からない。バイオ燃料業界は既に、政府の補助が不十分だと不満を募らせている。

 さらに「ライフサイクル」という条件がバイオ燃料の発展を妨げているとの批判もある(バイオ燃料生産の補助を受けるには、自分たちの生み出す燃料が石油よりもCO2排出量が少ないことを示さなければならない。排出量は、トウモロコシの栽培過程から最後に燃料として燃やすまでの「ライフサイクル」全体から算出する。石油より害がないと「証明」しなければいけないなんて!)

 原子力産業は新たな融資保証に加え、どんな電力でも大量に生産すれば税額控除が受けられることに大喜びしている。これまでにオバマが提示した方針を見れば、環境保護団体グリーンピースが今後のオバマの動きを心配するのも無理はない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中