最新記事

世界経済入門2019

仕事を奪うAIと、予想外の仕事を創り出すAI

HOW AI CREATES JOBS

2018年12月27日(木)17時00分
ケビン・メイニー(本誌テクノロジーコラムニスト)

今の私たちは何でもオンラインで済ませようとするから、そうした行為の全てが記録され、保存され、AIの学習材料となっている。人や車、屋外のさまざまな場所に設置したセンサーを利用する「モノのインターネット(IoT)」も誕生した。そうしたデータを解析してAIに供給するには膨大な計算処理能力が必要だが、それもクラウド・コンピューティングを使えば誰でも簡単に手に入れられる。

こうしたことから、AIがどんな仕事もこなせる段階に到達するのは時間の問題と考えられる。そしてこの認識が、猛烈なパニックの連鎖を引き起こしている。オックスフォード大学の研究によれば、人間が行っているあらゆる作業の約半分は機械で代替できる。一部には、総労働人口の90%が失業するとの予測もある。

EconomyMookSR181227ai-3.jpg

人手を介さずにロボットアームで車を組み立てる工場 AKOS STILLERーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

生み出される新しい職業は

2016年9月、人々の不安をなだめ、政府からの介入を未然に防ぐために、AI企業大手数社は「AIに関するパートナーシップ」を結成した。「われわれはAIが世界を肯定的に変える可能性を強く信じている」と、グーグルのムスタファ・スレイマンは語った。

一方、「心配なのは、ロボットが人間の仕事を奪い、人間を失業させることではない」と、米大統領経済諮問委員会のジェーソン・ファーマン前委員長は語っている。問題は、AIが人間の仕事を奪うスピードが速いと、「多くの人が失業する期間が長引きかねないということだ」。

それでも、悲観し過ぎるのは禁物だ。例えばライアン・ディタートが立ち上げたインフルエンシャルという会社は、IBMのワトソンをベースにしたAIシステムを構築した。このシステムはソーシャルメディアを精査して、多数のフォロワーがいる「インフルエンサー(影響力のある人)」を見つけ出し、それぞれのネット上のパーソナリティーを分析している。

特定のブランドがターゲットとする消費者の特性に合致するインフルエンサーを発掘し、そうした人とブランドを結び付けるためだ。ブランド側はインフルエンサーに報酬を払い、自社製品を宣伝してもらう。つまり、インフルエンシャルのような企業が成功すれば、一方でブランド・インフルエンサーという全く新しい職種が誕生するわけだ。

来るべきAI経済は、インターネットが予想外の仕事を生み出したように、現時点では想像もできない仕事をいくつも発明するだろう。30年前には「検索エンジン最適化の専門家」などという職業は存在しなかったが、今ではかなり実入りのいい仕事だ。

AIに限らず、産業の機械化・自動化で人間の職が奪われることは過去にもあった。セルフ給油の普及で多くのガソリンスタンドから店員の姿が消えた。だがそれは社会全体の生産性を向上させ、別な価値を生み出す別な職業を生む要因にもなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー

ワールド

焦点:中国農村住民の過酷な老後、わずかな年金で死ぬ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの文化」をジョージア人と分かち合った日

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    「未来の女王」ベルギー・エリザベート王女がハーバー…

  • 8

    「私は妊娠した」ヤリたいだけの男もたくさんいる「…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中