最新記事
健康

孫との交流に「健康リスク?」高齢者と幼児の接触で肺炎球菌感染が跳ね上がる

The Grandchild Pneumonia Risk

2024年4月25日(木)18時02分
パンドラ・デワン(科学担当)
孫との触れ合いに潜む肺炎球菌リスク

幼い子供との触れ合いは高齢者の心身の健康に良いはずだが EVGENYATAMANENKO/ISTOCK

<ゴールデンウィーク、孫との再会を楽しみにしている人も多いだろう。だが幼児との交流は高齢者の健康に利点も多いが、常在菌を感染させられる可能性も跳ね上がる>

シニア世代にとって、幼い孫たちと過ごすことには健康上のメリットがいっぱい。社会とのつながりを実感できるし、運動量も増えるし、認知能力も磨かれる。だが最新の研究によれば、孫との触れ合いにはリスクも潜んでいるようだ。

その1つが、肺炎レンサ球菌(肺炎球菌)。風邪に似た軽い症状だけでなく肺炎や髄膜炎などの重症の原因にもなる身近な感染性微生物で、主に幼児と高齢者への影響が大きく、世界で毎年約200万人の命を奪っている。

こうした菌は通常、気道に常在し、大抵の人の場合が自覚症状はない。米疾病対策センター(CDC)は、成人の約5~10%が無症候性キャリア(保菌者)だと推定している。

その一方で、子供の場合はこの割合が20~60%に跳ね上がる。

こうした菌の感染状況を調べるため、エール大学公衆衛生大学院を中心とした研究チームは、平均年齢が70歳以上の高齢世帯、全183人を2020年から22年にかけて調査した。

2週間ごと10週にわたり、被験者の唾液サンプルを集めたほか、生活や健康状態について質問した。

4月末にスペインで行われる欧州臨床微生物学・感染症学会議で発表予定の同研究によれば、被験者183人のうち少なくとも一度は肺炎球菌が検出されたのは28人。数度にわたって検出された人も複数人いた。

興味深かったのは、毎日、あるいは数日おきに幼児と接している高齢者は、幼児と交流のない高齢者に比べて肺炎球菌の保有率が6倍に上ったこと。さらにこの数字は、5歳以下の幼児と接している高齢者で最も高かった。

ワクチンの最大の受益者

一方で、家庭内で「大人から大人への」肺炎球菌感染が起こっている統計的に有意な証拠は見つからなかった。

「家庭内の誰か1人から数回にわたり肺炎球菌が検出された場合でも、あるいは家庭内で同時に2人の大人から肺炎球菌が検出された場合でも、大人から大人に感染したという明らかなエビデンスは見つからなかった」と、研究を主導したエール大学のアン・ワイリーは言う。

「代わりに幼い子供と頻繁に接する高齢者は感染率が一番高いことが判明した」

この研究はアメリカの狭い一地域を対象に行われ、被験者の大半が白人だったことから、感染パターンを断定するのにはさらなる調査が必要になるだろう。それでも研究者らは、高齢者を肺炎球菌感染症から守るワクチン戦略を周知する上で、この研究が役に立つと期待している。

「大人の肺炎球菌ワクチンに誰より助けられるのは高齢者だ」とワイリーは言う。「彼らがワクチンを接種することで、ワクチンが対応する型の肺炎球菌株を保有して感染させる子供たちから、自分の身を守れる可能性がある」

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 7
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中