最新記事
医療

「コロナ禍のマスク生活で免疫力が低下」はウソ 小児科の発熱外来が今、大混雑している根本原因とは

2023年7月27日(木)18時46分
森戸 やすみ(小児科専門医) *PRESIDENT Onlineからの転載
少女ののどを調べる女性の小児科医

写真はイメージです aslysun / shutterstock


今、子供の間でさまざまな感染症が流行していて、小児科の発熱外来が混雑しているという。小児科医の森戸やすみさんは「マスクの着用や新型コロナワクチンのせいだといううわさが流れているが、根拠はない。マスクの着用や手洗いなどの感染対策が緩んだことが原因の一つなので、むしろそれらの見直しを」という――。


例年と違って小児科は発熱した子供でいっぱい

毎年、大型連休であるゴールデンウィークが終わると、小児科外来は患者さんが減ります。小児科は風邪やインフルエンザの流行する冬のほうが患者さんが多く、夏は少ないのが通例なのです。ところが、今年はどこの小児科クリニックの外来も、発熱した子供たちでいっぱいになっています。クリニックだけでなく、病院の小児病棟も満床になっていることが多いようです。

 
 
 
 

これは今、子供の間でさまざまな感染症が流行しているため。RSウイルス、溶連菌、ヒトメタニューモウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、新型コロナウイルスの感染者が増え、これらは検査キットで特定することができます。他にもさまざまなウイルスや細菌が蔓延しています。小児科では症状からどの感染症かを予想したうえで検査を行いますが、特定できないケースも少なくありません。このほか、ヘルパンギーナ、手足口病、突発性発疹なども増えていて、百日咳や水ぼうそうの子もちらほらいます。

こうした例年にない状況は人を不安にさせるのでしょう。「新型コロナ対策でマスクをつけていたために、子供の免疫力が落ちた」「新型コロナワクチンを接種したから、子供の免疫が低下した」「子供には、もっと風邪をひかせておくべきだった」などという説がまことしやかに広まっています。でも、最初にお伝えしておくと、これは間違いです。今回は、その理由を詳しく説明したいと思います。

「マスク生活で免疫が落ちる」に根拠なし

先日、ある新聞が、現在のインフルエンザの流行は「コロナ禍のマスク生活で、インフルへの免疫が一斉に落ちたことが原因だ」と断じ、「専門家は『子供にとって怖いのはコロナよりインフル。心配な人はワクチンを打ってほしい』と話す」と書きました。この記事は、さまざまな箇所が間違っています。

まず、この季節にインフルエンザワクチンを接種できる医療機関は、ほぼありません。インフルエンザは、通常12月から翌年の2月ごろに流行する感染症です。そしてインフルエンザワクチンは、WHO(世界保健機関)が次シーズンにはどの型が流行するかをが予測し、それに基づいて各製薬会社が秋までに製造します。そうして各医療機関に供給されたワクチンは、毎年10〜12月ごろに接種され、残ったら春までに返品されるのです。

次に「マスク生活で、インフルへの免疫が一斉に落ちた」というのは、どういう意味でしょうか? インフルエンザに対する抗体を全員が持っていたのに、マスクが習慣になったせいで一斉に減少したということでしょうか? この記事を書いた記者は、実際の抗体検査の結果などの根拠を示していません。インフルエンザが増えた理由が、免疫の低下にあるとは到底いえるはずがないでしょう。

SDGs
2100年には「寿司」がなくなる?...斎藤佑樹×佐座槙苗と学ぶ「サステナビリティ」 スポーツ界にも危機が迫る!?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:社会の「自由化」進むイラン、水面下で反体制派

ワールド

アングル:ルーブルの盗品を追え、「ダイヤモンドの街

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円で横ばい 米指標再開とFR

ビジネス

米、対スイス関税15%に引き下げ 2000億ドルの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 6
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 7
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 8
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中