最新記事

インタビュー

「毎日が正しさとの戦い」未来食堂の『ただめし』制度と店主の葛藤

2020年2月28日(金)17時40分
Torus(トーラス)by ABEJA

ディレクターも同じことを感じていたのでしょう。一日の終わりに「今日券を使った人がいたんですが、ふてぶてしい態度でした」「僕は正直、ああいう人が使うべきではないと思います。せかいさんはどう思いますか?」とおっしゃいました。

私は、さっき話した通り、誰が使ってもいいようにあえて気持ちを離しているので、のらりくらりと「そうなのかもしれませんね」と受け流していました。

そしたら、その数日後、その男性のお客さんがまた券を使って食べに来たんです。

前と同じように「この仕組みを見たかった」と書かれた券を彼から受け取った瞬間、「あ、この人は本当に困ってる人だけど、それを言えない人かもしれない」って思ったんですよ。直感ですが。

すごく印象的な出来事でした。

──つまり頭の中に、「困っている人」のステレオタイプがある、と。

そう。「困っている人は『本当に助かりました』と言ってありがたがるだろう」という憶測や期待は、自分が持っている「ステレオタイプ」ではないでしょうか。

そのステレオタイプがあるために、「本当はとても困っているのに『いや、こんなの視察だよ』と強がっているかもしれない人」への意識が向かなくなってしまう。

だから、券をどういう人が使っているかをあえて意識しないようにしています。「こういう人に使ってほしい」って思ってる人ほど、危うい。


「あなたは困っている」「あなたは困っていない」と人をふるいにかけるのではなく、ただただきた人を受け入れる、それこそが"ただめし"の本質だと考えています。そう考えたとき、"本当に困っていない人"が数日使ったとして、そこで気持ちが揺らいでしまうのはまだまだ覚悟が足りません。(『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』より引用)

Torus_Kobayashi5.jpg

──‟ただめし"を始めたときから「あえて意識しない」という心づもりだったんですか?

そうです。だからこそ"ただめし"という、ちょっとふざけたネーミングにして、誰でも使いやすいようなデザインにしたんです。

本当に困ってる人を選別したかったら、もっと違うデザインにしたと思うんです。「まず最初に店主にご相談ください」とか「ご相談後に、1食無料の券を差し上げます」とかいうカチッとしたシステムにするといったような。実際にそういうお店もあります。

でもそういう方法は、私にはできません。人が人をジャッジするというのは大変難しく、ともすると傲慢になりがちです。自戒を込めて私自身は、相手によって判断を変えないように気をつけています。

使いたい人が使えばいい。だからこそ券を貼る人・使う人と、自分をあえて遠ざけるようになりました。

誰かの想いを受け止める場所

このバインダーには、今まで使われた"ただめし"券が保管されています。ハンコが押してある面が、働いた人のメッセージ。裏は使った人が書く。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中