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「オレンジワイン」、8000年の時を経て密かなブームに

Orange Wine Is Taking Over

2019年2月25日(月)18時20分
イブ・ワトリング

昔ながらの素朴な製法が豊かで複雑かつ個性的な風味を醸し出す DEB LINDSEY-THE WASHINGTON POST/GETTY IMAGES

<カフカス地方の伝統であるスキンコンタクト製法で生まれる魅惑の美酒に、フード業界が首ったけ。ヨーロッパでは既に主流のワインの仲間入りを果たしている>

あなたのお好みのワインは赤、白、それともロゼ? このいずれとも違うワインがいま注目を浴びている。オレンジワインだ。

といってもオレンジから造られるワインではない。白ワイン用のブドウを使って特殊な製法で醸造すると透明なオレンジ色になるために、そう呼ばれる。

白ワインはブドウを搾った後に皮を取り除いて発酵させるが、果汁に皮を入れたまま何週間、あるいは何カ月か漬け込むと、独特の風味や色素、タンニンが抽出される。そのためできたワインはオレンジ色を帯びる。

皮を一緒に漬け込むことを「スキンコンタクト」と呼ぶので、オレンジワインはスキンコンタクトワインとも呼ばれる。

ちなみに赤ワインは赤ブドウを使って、皮も一緒に漬け込むスキンコンタクト製法で醸造される。

トレンドセッターたちがオレンジワインに注目し始めたのは最近のことだが、スキンコンタクトは記録に残る世界最古のワイン製法で、およそ8000年前から行われていた。

オレンジワインはヨーロッパでは既に主流のワインの仲間入りを果たしている。アメリカではどうか。ワインに詳しいライターのカレン・マクニールによると、「10年ほど前からニューヨークなどの大都市で新しい物好きのソムリエたちが目を付け、ワイン通の間で知られるようになったが、今はまだ愛飲している人はごくわずか」だとか。

それでもトレンドに敏感なフードライターやインフルエンサーはどっぷりはまり、ニューヨーク・タイムズ紙がフード業界はオレンジワインに「取りつかれている」と表現するほどだ。

素焼きの壺で発酵させる

肝心の味だが、皮を加えることで白ワインとは全く違った風味が生まれる。傾向としてはコクがあって、ピリッとスパイシーな、ややビールに似た風味になる。メロンやハーブ、ナッツを想起させる風味のものもあるが、皮をどのくらい入れておくかによって味が変わる。長期間漬け込めば、より豊かで深い風味が生まれる。

オレンジワインの発祥地はカフカスの山々がそびえる東ヨーロッパの国ジョージア(グルジア)。首都トビリシ近くで出土した8000年前の陶器の破片にはブドウの模様があり、ワインの化学的な痕跡も検出された。

この国の人々は伝統的にクベブリと呼ばれる大きな素焼きの壺でワインを造ってきた。皮ごと果汁を入れた壺を土に埋めて、数日から半年ほど発酵させる。はるか昔から伝えられてきたこの製法で、ジョージアでは「琥珀色のワイン」と呼ばれるワインができる。2000年代初めにイギリスの輸入業者がオレンジワインというあまり気の利かない名前を付け、そちらのほうが定着した。

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