最新記事

キャリア

海外進出企業の失敗例の背景にある英語力不足

2019年1月22日(火)18時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

そのため、日々必死に勉強していますが、連日のように世界のさまざまな事象についてファシリテーション(対話を通じて議論を活性化させること)していても、的確な質問やコメントができなかった日もありますし、英語でクライアントと打ち合わせをしても、うまく伝わっていないのではと不安になることも度々あります。

もちろん、すべての人がグローバル化に備えて英語力を徹底強化すべきであるとは思っていません。業態や業種、所属部署によって必要性に相当な違いがあり、職業によっては英語がほぼ不要ということはあるからです。しかし、ある程度グローバル化を進めようとしている企業の経営幹部や幹部候補、海外事業担当者が英語ができないことは、今後は致命的です。英語ができずに現地に赴いても、「何しに来ているの?」を思われるのが関の山だからです。

リーダー層の英語力の低さのため、世界の優秀な人材がそっぽを向く

一般庶民が自国語しかできないのは世界でも普通のことです。しかし、社会の指導者・リーダー層で英語ができない国は、日本を除くと多くありません。リーダー層の多くが英語ができないにもかかわらず、さほど深刻ととらえられていないのは異様なことで、そもそも首相や外相、経団連会長の英語力についてマスメディアで議論にならないのは不思議なことです。

北朝鮮など鎖国状態にある非民主国ならいざ知らず、民主的で経済的自由があり、海外にも開かれているはずの国の政治家、経営者、学者、ジャーナリストなどのオピニオンリーダーがここまで英語ができない国はまれです。

ある旧帝国大学の工学部関係者と意見交換した際、工学部は英語での授業が一番ふさわしいので、少なくとも大学院ではぜひ講義およびゼミ指導や論文執筆を全部英語で実施してほしいという持論を展開しました。すると、教授陣の英語力が不足しているため無理と言われました。理工系の大学院で自国語のみというのはまさに絶海の孤島のイグアナで、驚いて言葉になりません。

後述しますが、明治時代は多くの授業が英語で実施されていました。しかし現在、日本では超難関大学の大学院でも日本語でほとんどの講義やゼミが行われています。日本文学や日本法を学ぶならともかく、工学、理学、医学、経済学などの分野の大学院レベルで日本語が原則であれば、学生も研究者も世界から優秀な人材が来るわけがありません。大学とは、世界から優秀な人材を集めて世界に冠たる研究を行うところです。少なくとも一流とされる大学はそのような社会的役割があり、そのために税金も使われているのです。

研究者にとって論文が引用されることは重要です。英エコノミスト誌によると、国境を越える研究者の方が論文が多く引用される傾向にあることがわかっています(2017年10月6-13日号)。そもそも日本人研究者の国際研究自体が少ないとの指摘もあります。いま、日本の大学がぶつかっている研究活動の大きな壁は、日本人中心、日本語中心であり過ぎることです。東大や京大の世界ランキングがどんどん下降しているのもこのことに起因します。

問題は研究機関だけではありません。日本企業に世界の優秀な人材が応募してこないのも英語のためです。役員など幹部クラスが英語のできない日本人男性でほぼ固められているため、優秀な世界の学生がそもそも応募しないのです。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 2
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 3
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった...「ジャンクフードは食べてもよい」
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 9
    「豊尻」施術を無資格で行っていた「お尻レディ」に1…
  • 10
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中