最新記事
ドラマ

斬首された女王が死なない?...歴史を大改変も「下品な豆知識」で『ゲースロ』を超える『マイ・レディ・ジェーン』

A Quirky Historical Riff

2024年8月9日(金)15時16分
レベッカ・オニオン
『マイ・レディ・ジェーン』エミリー・ベイダー演じるジェーン・グレイ

王に後継者に指名された貴婦人ジェーン ©AMAZON CONTENT SERVICES LLC

<打撲傷には「動物のフン」、イルカのローストに「お便器番」...「強気なクイーン物」らしい作風にはあきれるが変テコで恐ろしい歴史のトリビアを楽しめる──(レビュー)>

第1話を見ただけで、筆者はアマゾンプライム・ビデオのドラマ『マイ・レディ・ジェーン』を「強気なクイーン物」のジャンルに分類した。

スコットランドの女王メアリー・ステュアートをめぐるメロドラマ『REIGN/クイーン・メアリー~愛と欲望の王宮~』やロシアの女帝がヒロインの『THE GREAT~エカチェリーナの時々真実の物語~』、19世紀アメリカの詩人エミリー・ディキンスンの生涯を大胆に語り直した『ディキンスン〜若き女性詩人の憂鬱〜』の仲間だ。


どれも最初は面白かった。でも、一瞬でも退屈させたら視聴者に見限られるという作り手の焦りが透けて見える歴史ドラマに、最近はうんざりしている。

BGMは決まって今どきのポップス。品のない言葉遣いと現代的なユーモアが、取って付けたようで神経に障る。主人公は恐れ知らずなのだが、その大胆さは前時代的だし、みんなやけに態度が大きい。

『マイ・レディ・ジェーン』も同類だと、私は決め付けた。何しろ原作はカラミティ・ジェーンやジェーン・エアら有名な「ジェーン」に脚光を当てたヤングアダルト小説シリーズなのだ。

ヒロインのジェーン・グレイは16世紀のイングランドに実在した貴婦人で、「9日間の女王」とも呼ばれる。教養の高いプロテスタント教徒の彼女はエドワード6世の遺言により1553年、16歳で女王に即位した。だが、宮廷の権力闘争に負けて瞬く間に失脚し、翌年斬首された。

マニアな豆知識が光る

しかし、ドラマのジェーン・グレイ(エミリー・ベイダー)は死なない。それどころか、この世界には動物に変身する人々がおり、「イシアン人」と呼ばれて虐げられている。

ある視聴者はキャラクターの1人が馬に姿を変える映像をX(旧ツイッター)に投稿し、「何これ?」と戸惑いをあらわにした。

私もあきれた。「変身」なんてありきたりなモチーフを中心に物語世界を組み立てるなんて、しかもそれを差別の比喩として使うなんて、それこそ古くさいヤングアダルト小説みたいでイタい。

これに比べたら、実際のカトリックとプロテスタントの対立のほうが──見栄えはしないが──断然面白い。だいたいこのドラマ、史実と全く関係ないんじゃないの?

けれども2話3話と見るうちに、不満は消えた。

ほかのクイーン物や『ブリジャートン家』のようなお色気コメディーと遺伝子を共有しつつ、『マイ・レディ・ジェーン』は1点において群を抜いている。笑えて変テコで恐ろしく、時に下品な歴史のトリビアがこれでもかと盛り込まれているのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド、銀行株売り 消費財に買い集まる=ゴ

ワールド

訂正-スペインで猛暑による死者1180人、昨年の1

ワールド

米金利1%以下に引き下げるべき、トランプ氏 ほぼ連

ワールド

トランプ氏、通商交渉に前向き姿勢 「 EU当局者が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中